疵をつけて

 その日、焔は例によって家に押しかけてきた。
 来るならちゃんと知らせてほしいと苦情を申し立てるこちらを無視して抱き付いてきて、
「今日は寒ぃから、ぬくもらせろ」
 と我がままをいう。それが単純に食事でとか、手合せでとか、まっとうな事なら私も嫌がりはしない。
 けれど焔のそれは、夜を共にするという事を意味しているから、困る。
 ――嫌なら断りゃいい。よそへいくさ。
 初めて押し倒された時、ほろ酔いの彼がそんな身勝手を言うものだから、思わずカッとなって受けて立ってしまった私も悪い。
 彼に仲間として以上の好意を持っているかは、こうなった今も判然としない。
 けれど、焔に、他の女でもいいと適当な扱いを受けるのは、我慢ならなかった。
 それは女の意地とでもいうべきか。酒の勢いで軽率に結んでしまった関係は何となく断ち切る事も出来ず、ずるずると続いてしまっている。
 何のかんのと断りの文句を並べたところで、私は結局焔を受け入れてしまうし、事が終わった後に彼が去っていくのを見送るしかない。
 でも、今日の焔は確かに体が冷え切っていて、触れるたびにこちらがすくみあがってしまうほどだった。
 聞けば、哨戒任務で武の領域を回ってきたところらしい。
 この寒空の下、あの氷原を回っていては、凍えてしまうのも無理はない。そう思ったら少し可哀そうになって、
「はっ……」
 息の塊を吐いて気をやった焔の顔を両手で包んで、
「……焔……、少しは、あたたかくなった?」
 熱に浮かされたようにくらくらしながら囁きかけると、焔は目を瞠って体を強張らせた後、
「……っせ。そんなの、とっくにだ」
 戸惑うように視線をさまよわせて、私の手を乱暴に外して体を引いた。
 熱が離れるのが惜しくて見上げた焔の横顔が、行灯の淡い光の中で赤くなっていたように見えたのは、私の気のせいだろうか。

焔は捌け口というか暇潰しみたいなつもりでいたのに、くみしいた相手から優しく労られてどきっとして罪悪感をおぼえて、そんな風に感じる自分にもびっくりして、とかそういう心境。