test白都兄妹小話

1123  ぴゅうと北風が吹き抜けて、隣を歩くゆき子が肩を縮こまらせた。 「ゆき子、大丈夫か?」 「平気よ、お兄様。このくらい何ともないわ」  ランドセルを背負い直して答える妹は最近ずいぶん逞しい。だが目に見えて寒そうな…
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testfearless beast

「……藤巻さん。あんた、藤巻さんか」  声をかけられる前に、自分の背後から近付く気配を察していたのは、自分が特別敏いからではない。かちゃっ、かちゃっという微かな、しかし聞き逃すには目立つ、義足の音を耳が拾い上げたからだ。…
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testmechanical melancholy

 ドサッとカウンターへ置かれたバッグに、虻八は眉をあげた。  使い込まれてあちこちひびのはいった革の表面には、掠れた「U.D.」の文字が描かれている。  見慣れたそれから視線をあげれば案の定、持ち主も見慣れた男だった。見…
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testugly dack

 長く仲たがいしていた兄と復縁したのは、春のことだった。  最初はお互いどう振る舞ったものか戸惑いはしたものの、そこはやはり兄の樹生がリードをしてくれて、月に一度、彼のロッジでお茶会をしようという運びになった。  その時…
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testbluebird

 吹き抜ける爽やかな風に乗って、ひらりひらりと花弁が舞い落ちていく。  満開に咲き誇る桜は天を覆うように枝葉を広げ、その美しさは圧巻の一言だ。  こんな光景を独り占めしているのは贅沢だな、と車にもたれて見上げていた樹生は…
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testroots

 ~片時も君が頭から離れない 君への思いが止められない 想像するんだ 君と幸せな結婚をする自分を~  先程から窓の外でギターとともに歌声が響いている。  メロウな曲調は湿っぽく、朝聞くには向かない歌だ。  南部はライムを…
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testないしょばなし

 花をすぐに駄目にするというから、苦心してドライフラワーの花束を作った。これを渡したらきっとあの綺麗な笑顔を見せてくれると思ってたのに、 「こんにちは、サチオくん」 「こ、こんにちは、ゆき子さん。あ、あの」 「ゆき姉ーー…
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testfarfalla

 ――血に染まった袖が、腕にまとわりつく。  ぬめる感覚に不快を覚えるが、それよりも、痛みのせいで車椅子の車輪を上手く回せない事に苛立ちが募る。アラガキは切れる息の合間に舌打ちし、動きを止めた。 (……くそっ)  背もた…
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testfaith founded

 古びたステンドグラスから柔らかな光が降り注ぎ、十字架にかけられた主や、説教台や、整然と並ぶ木製のベンチが照らし出される。  ……その光景を、自分はもう目にすることができない。  視力を失って訪れた教会は、もしかしたら以…
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