スペンド・ライフ・ウィズ・ユー

「なぁなぁ、けっこんする時って、プロポーズって奴するんだろ? シャー姉は何て言われたんだ?」
「!?」
 一周年記念パーティーでわいわい盛り上がる中、膝の上に腕を投げ出して飛びついてきたオイチョの質問に、シャルはぎょっとしてしまった。
「な、何? プロ、ポーズ?」
「おお、言われてみりゃ気になるな。勇利こいつが一体どんな顔でプロポーズしたんだよ」
「お決まりの、膝をついて……なんてのに近い事を、真面目にやりそうだな、勇利は。実際どうだったんだ?」
 話を聞きつけたジョーとアラガキまで、乗り気で聞いてくるから、い、いやぁ……と首をかしげてしまう。
 どんな、と言われても――

『シャル。さっき看護師に、よく気の利く婚約者ですねと言われたんだが、どういう事だ?』
『うっ』
 勇利が入院して間もない頃にそう言われ、シャルは言葉に詰まってしまった。
 隠し通せるようなものでないと分かっていたが、本人から聞かれると、なかなかに答えにくい。
 とはいえ、ごまかせる気もしないので、
『いやその……ほら、家族や何かじゃないと、勇利の付き添い出来ないって言うから……』
 ゆき子がついてくれた嘘をそのまま通しているのだ、と続けようとしたら、ベッドで上体を起こした勇利は瞬きした後、ニッと笑った。
『……それなら、本当に婚約するか』
『…………へっ?』

 ――というような流れだったので、特にロマンチックでも何でもない。
 この後、婚約するのは嫌か嫌じゃないかみたいな、気恥ずかしいやり取りはあったものの……と思い起こしていたら、シャルの隣に座った勇利が、
「プロポーズはシャルからされた・・・・・・・・
 さらっとそんな事を言い出したので、
「ぶはっ!!」
「うわ、汚ぇよシャー姉ぇ!!」
 膝上のオイチョが逃げ出すほど、ジュースを吹き出してしまった。慌ててタオルで拭きつつ、
「なっ、ななな何言ってんだ勇利、こっちからしてないだろ!?」
 勇利に食って掛かったら、相手は肩をすくめた。
「覚えてないのか。俺は病院でお前にプロポーズされたぞ、あの中庭でな」
「中庭って、なか……にわ……って!!」
 何のことかと一瞬戸惑ったが、病院で勇利と中庭にいた記憶といえば――
 自分がメガロボクスを断念して入院した際、告白されたあの時のものしかない。
 な、と絶句した後、シャルは自分の顔に熱が上がってくるのを感じた。
「ち、ちがっ、あの時は勇利が急に、」
「その前に、お前がこう言っただろう。俺は自分にとって特別な存在で……」
「わーーーー!! わーーーーーー!!」
 律儀にリピートされそうになり、思わず勇利の口を手でふさいでしまう。と、
「オレ、それ知ってるぜ! こうだよな、一生代わりがいないくらい特別だから、そばで力に」
 ひょいと会話に割り込んできたサチオが続けたものだから、
「お、お前もそんな事覚えてるんじゃない、サチオ!!」
 もう一方の手でその口をふさぐ。
 その滑稽な様子にジョーが吹き出し、アラガキも笑って腕を組んだ。
「驚いたな、チャンプに女からプロポーズするとは。
 あんたらしいと言えばらしいのか」
「だっ、ち、違う、あれは別にそういうんじゃ……」
 必死で否定しようとしたら、易々とシャルの手をどけた勇利が、こちらの顔を覗き込んで、
「それなら撤回するか? あの時の言葉を」
 憎らしいほど端正な笑みを浮かべて、低く甘く囁いたので、
「うっ……や……その……違う……そうじゃないけど……」
 と返事に詰まり、汗をだらだらかく羽目になってしまった。
 ……なるほど。前に勇利が忠告した通りだ。
 不用意な事は本当に、言うものじゃない……。