いつもの店で豆菓子を買う際、店主にギアレス・ジョーと呼びかけられた途端、後ろで悲鳴が上がったから驚いた。
「!?」
何事かと肩越しに振り返ると、目をきらきらさせた若い女が二人。
「えーっうそー! ギアレス・ジョーじゃん、ホンモノ!!」
「マジで! テレビでしか見た事ない、やっだかっこいー! 髪もしゃもしゃじゃん!」
「ああ……?」
耳に刺さる高音の声に顔をしかめ、つい唸る。そこそこ険悪な表情だろうが、相手は全く気にせず、
「皆がすっげー騒いでるから―、メガロボクス見始めてー、ジョーめっちゃかっこいいって言っててー」
「こんなとこで会えるとか超ラッキー! ねね、写真とろ写真! 皆に自慢できるー!」
勝手に言いつのったあげく、両手にしがみついてきて携帯を構えだした。さすがにいらついて、
「おい、あんたら……」
やめろ、と振り払おうとした瞬間。バンッと大きな音が狭い店内に響き、女たちがびくっと震えた。音の源へ目を向けると――サングラスをかけた背の高い女が、立っている。
「……」
女は無言でこちらへ視線を向けた。目は見えないが、女二人をさっと見やり、
「買わないならどいて。さっきから待ってるんだけど」
顎をしゃくって高飛車に言い捨てる。な、と声を詰まらせる女たち。その腕が緩んだのを見計らって、自分は会計を済ませた袋を掴んで、さっと避けた。
女はゴツゴツと固い靴音を立てて進み、手に持っていたビール瓶二本をカウンターに置く。
縮こまった女たちには見向きもせず、凛と背筋を伸ばして会計を待ち、終わったはしから片手で持って、身をひるがえす。その視線が、サングラスの隙間から一瞬こちらを見た気がしたが――
「やれやれ、人気もんは辛いね」
女が出ていき、絡んできた連中もいつの間にか姿を消した頃、店主がからかってきた。物好きがいたもんだな、と肩をすくめると、相手はふふっと笑う。
「姦しい連中も、ハード系の女もイチコロたぁ憎いもんだよ、ギアレス・ジョー?」
「あ?」
何のことかと首を傾げれば、店主がニヤニヤ笑いながら言う――さっきの姐さん、あんたのタトゥーを足に入れてたよ、と。