これが出来たら一人前、と言われて、ついその気になったのがまずかった。
「……っそ、これで、どうだっ!」
ぎ、と車軸を締めたところで手の力が完全に尽きて、ぶるぶる震えてしまう。
工具を放り出したジョーは尻餅をついて、はぁっと大きく息を吐き出した。脇に置いた時計を見やって、顔をしかめる。
(前輪だけで、二時間もかかってるのかよ……手間かかりすぎだろ)
手際の悪さにげんなりしながら、苦心惨憺の結果――タイヤを交換したばかりの愛車を見渡す。
ジャッキで地面から浮いたバイクは、ジョーの悪戦苦闘の証拠にべたべたとオイルまみれになっている。
それも後で綺麗に拭かなければとげっそりしたが、少なくとも、空気の抜けたタイヤで萎れていた時よりは、だいぶましな格好になったようだ。
(タイヤ交換なんて出来るのかっておっさんにからかわれたけど、やりゃぁできるじゃねぇか)
時間はかかったが、新品のタイヤを全部自分の手で入れ替える事が出来て、疲労と共に達成感を覚える。
まずは満足してタンクの腹に、掌はまだオイルで汚れているから、指先だけで触れた時、
「……つき合い長いのにな」
ふと感慨が湧き、一人ごちる。
このバイクに乗るようになってからずいぶん経っているが、これまでずっと整備は人任せにしてきた。
動かし方を知っていても、自分でメンテをするようになってからは初めて知ることばかりで、まるで最初に手に入れた時のような興奮が蘇ってくるのを感じる。
(大事に乗ってやらないと不憫、か。確かにな)
なかば手足のように感じていたけれど、こいつの事を何も分かっていなかったのだと今更実感し、苦笑する。
これだけ複雑な作りで、整備に手がかかるものを、あれほど乱暴に乗り回していたのか。
そう思う一方で、バイクを大事に出来ないほど、昔の自分は追い詰められていたのかと顧みる事にもなって、なおさら苦い笑いが漏れた。
(悪いことをした。……これから手をかけてやらないとな)
ぽんぽん、と労るように叩いた後、ジョーは気合いをいれて腰をあげる。
タイヤ交換作業は、まだ終わっていない。
何しろ自分で初めて一から十まで作業したのだから、これできちんと走れるのかは、テスト走行をしてみなければ分からない。
(早く走りてぇ。……新品でめかしこんでるんだ、お前もそうだよな)
そう思うと、まるで子どものように胸が弾んで、ジョーは思わずにやっとした。
ヘッドライトを交換した時ですら、わくわくしながらスイッチをいれて、何度も具合を確かめたものだ。
タイヤなんて大物を自分の手で交換できたのだから、興奮するのもやむなしだろう。
乗る前にまずオイル跡をきれいにしようと、布を手繰り寄せれば、口笛の一つも吹きたい気分になってくる。
早くこいつに乗って、全身に浴びるほど風を感じたい。
自らの手足となって走る相棒と地平の先まで駆けていけば、それはきっと何よりも快いドライブになるだろう。
my pal(相棒)