うまい朝食で腹はいっぱい。腰の痛みも、じっとしている分には落ち着いている。家の主は車に乗って、先ほど出かけて行った。
そのエンジン音が完全に聞こえなくなってしばらくしてから、
「…………はぁ…………」
キャットは大きく息を吐き出し、起こしていた体をずるずると枕から滑り落とした。
こてんとベッドに横になると、くしゃくしゃになったシーツが目に入る。
(……何か……まだ夢見てるみたいで、変な感じだ……)
ぼけっとしながら思い出すのは、暴漢に襲われた自分を勇利が保護してくれた日のこと。
勇利の自宅に突然連れて来られただけでもびびったのに、寝室まで明け渡されて。
こんな高そうなベッドで寝ていいのかとびくびくしながらも、疲労と犬のぬくもりで、あっという間に寝入ってしまったっけ。
(あの時はまさか、ここで勇利とえっちするなんておも……いや、うっ)
昨夜を思い出した途端、カーッと全身が熱くなる。思わず枕に顔を埋めたが、そうすると今度は勇利の匂いに包まれて、ますます鼓動が激しくなる。
息苦しくなったのでぶはっと顔を上げ、バカみたいに跳ねる動悸おさまれと胸を押さえていたが、
(……そういや)
ふと思い出した事があった。
(まずいかな。でも、鍵かかってるわけでも、ないし。いや……まぁ……ちょっとだけ)
ぐるぐる自問しながら、そろっと腕を伸ばし――ベッドサイドの棚の引き出しに触れた。緩く取っ手を引けば、何の抵抗もなくそれは開き……中にあるのは、
(勇利、ちゃんとゴム、持ってんだな……)
封を切られた、それの箱。
昨日行為の途中、なんだその……足りなくなった勇利がここを開いて取り出すのを、横目に見てしまったので、ありかは知っていた。
(……なんか用意してんのがらしいというか、こういうの必要なくらい、女づきあいあるの変な感じというか……)
見たところ、開封したばかりだが、買ってきたのか、元から保管していたのか。
(勇利が女と付き合ってる話聞いた事ないけど……やっぱ、あったのかな)
ない訳ないとは思うが、それにしてもこう純然たる証拠を見てしまうと、びびる。
思い返せば迫り方もわりと堂に入ってたから、女慣れしてはいるんだろうけど、キング・オブ・キングスの人を寄せ付けない孤高のチャンピオンといったイメージとそぐわない。
(……自分の前にも、ここで勇利とした人がいる、んだよなぁ)
「っ」
ふとそんな事を考えたら、ずきっと胸が痛んだので顔をしかめた。
(うわ、恥ずかし。一回したくらいで昔の女にやきもちとか……身の程知らずか)
自分がこうして勇利の家にいる事自体、奇跡か何かでしかない。
今この時、恋人として扱ってもらえてる事に感謝こそすれ、勇利の過去をうらやむなんて、分が過ぎる。
(……駄目だ、何か色々ありすぎて、変な事考えるな。ちょっとひと眠りしよ)
ぱたんと引き出しを閉じ、掛布を肩まで引き上げて目を閉じた。
しかし、ふわ、と鼻をかすめた香りと暗闇が昨夜の情事をまざまざと呼び起こして、また体温が急上昇する――眠れるのか、これ?