She’s my Work.(血界戦線スティーブン×チェイン)
チェインは普段から着飾る事をしない。
最低限の身だしなみは別として、単純にアクセサリーや化粧でけばけばしく身づくろいするのは好みではないし、不可視の人狼という種族の特性上、人目を引きすぎない装いをするのは義務でもあった。
ゆえに仕事着は白ワイシャツに黒スーツとごく質素なもので、飲み会でもパンツ姿、フォーマルなディナーでもスカーフを追加するくらいのものだ。
それだから、ただいま現状、裾がレースでふっわふわの、肩だしドレスなんかを着ている状況が、とんでもなく落ち着かない。
(分からない……これ、似合ってるの? 分からない!)
とりあえず着てはみたものの、いつもと雰囲気が違いすぎて、自分に合っているのかどうか全く判断できない。鏡を睨み付けてぐぬぬと唸っていたら、
「……チェイン? そろそろどうだい、準備できたかな」
こんこん、と扉を叩く音がして、スティーブンの声がしたので、
「は、はいっ! 今行きます!」
慌てて試着室の外に出た。待っていたのは、やはり正装しているスティーブンだった。
ポケットに手を入れてアンティークのオークテーブルに寄り掛かる姿はいつも通りだが、すらりとした痩身をディレクタースーツに包んでいるのが実に様になっていて、
(うっ、うわぁぁぁ、うわぁぁぁ、かっ……こ、いい!!!!)
正直心臓に悪いほどチェインのツボを刺激しまくっていた。
試着室の扉にすがり、叫びだすのを必死で我慢していたら、スティーブンがテーブルから離れてツカツカ歩み寄ってきた。顎に手を当てて、チェインを頭から足元まで見渡すと、にっこり笑う。
「ああいいね、チェイン。よく似合ってる」
「はっ……は、いえ、あの、はいっ」
どうしよう心臓口から飛び出しそう。きらびやかな笑顔で言われて、チェインは慌てて顔をそらした。もじもじしながら、何とか答える。
「す、スティーブンさんが選んでくれたものですから……私なんかでも、どうにか見れるようになります」
「なんだ、ずいぶん謙虚な物言いだな。どうにか見られるなんてもんじゃない、可愛いよ」
「かっ……」
可愛いとか! そんな簡単に! 言わないでほしい! このたらし上司は!
思わず抗議したいくらいのときめきに襲われて口をぱくぱくするチェイン。
それを分かっているのかいないのか、スティーブンはああそうだ、と手に持っていた細長い箱を前に出した。
「勝手ながらアクセサリーも用意させてもらったよ。チェイン、ちょっと後ろを向いて。つけてあげよう」
そういいながら取り出したのは、純白の三連パールネックレスだった。チェインが今まで見たこともないほど、一つ一つが大きい上に、艶やかな輝きを放っている。
「いっ、いいんですか、そんな高そうなもの」
手に取るのも怖いと思いながらおそるおそる尋ねると、スティーブンは軽く肩をすくめた。
「ああ、先方のご機嫌取りも兼ねてるんだから、気にしなくていい。わざわざ君に来てもらったのも、相手の商品で飾り立てるためでもあるしね」
そういえば今日の接待客は、ヘルサレムズ・ロットでも有数の宝石商だった。
いつもならクラウスとスティーブンがその相手を務めるのだが、宝石に関する話題なら女性の方が適任だろうという事で、チェインが引っ張り出されているわけだ。
そのせいか、樫のテーブルの上には他にもアクセサリーの箱がいくつか置いてある。
「というわけだから、全部つけてもらうことになるけど、いいよな。チェイン」
「は、はぁ……無くさないように気を付けます」
大きな真珠の粒一つとっても、自分の給料では賄えないくらいの金額ではなかろうか。ひやひやしながら、チェインは背を向けた。
すっと目の前をネックレスが通り過ぎ、軽い重みが鎖骨をこすって、首の周りをぐるりと囲む。スティーブンのひんやりとした指が少し、肌に触れたので、一瞬びくっとすると、
「よく似合ってるよ、チェイン」
「っ!」
笑いを含んだ言葉が耳元に吹き込まれて、チェインはぱっと顔を上げた。
試着室の鏡には、柔らかい照明の光をあえかに反射する、可愛らしいドレスを纏った、自分ではない自分が、真っ赤な顔で映っている。
そしてその背後から覗き込むスティーブンの悪戯っぽい笑顔も見え、
「……これが仕事でなきゃ、このあと脱がす楽しみが待ってるのにな」
などと甘く低い声で囁かれたので、
ボンッ!
チェインはあっさり、許容量をオーバーした。
「スティーブン、チェインの準備はまだ終わらないのかね。そろそろ行かねば、遅刻してしまうが」
「あ、ああいや、ロビーで待ってくれ、クラウス。すぐ、すぐ行くから!
……チェイン、俺が全面的に悪かった、もうあんな事はしない。からかって悪かったから、早く実存帰還してくれ頼むからーーー!!!」
She’s my Work.
スティーブンが攻めに転じた時はチェイン逃げて超逃げて、って思うんですw
ほんとは背中空いてるドレスで、スティーブンがつーと撫でるシーンも入れたかったけど、チェインが耐えられなかった。
背中のチャックを下ろして手を滑らせるとかね!えろす!スティーブンてなれてるさいてい!(えー)