部屋とYシャツと英雄王(Fate/EXTRA CCC 金女主)

 それはいつものようにハードな迷宮探索を終え、マイルームへ帰ってきた時のこと。  やれやれやっと休めると肩の力を抜いたこちらとは逆に、金ぴかのサーヴァント――ギルガメッシュが不快そうな声をあげた。 「雑種、何だこれは。ただでさえ狭苦しい納屋だというのに、なぜカーテンで仕切りを作った。こんなもの、探索に出る前には無かったぞ」 「あ、もうつけてくれたんだ。さすが桜。仕事早いなぁ」  ギルガメッシュが鬱陶しそうに払いのけているのは、桜に依頼して追加してもらったオブジェクトだ。  カーテンは教室のすみっこの一角を四角上に仕切っている。  簡易だけどこれで本当に私の場所が出来たと嬉しくなったのだけれど、ギルガメッシュの眉がぴくりと上がった。 「いよいよBBとの対決も迫り、リソースを限界までサクラ迷宮探索へあてている今この時期に、なぜ無駄なことをする?  貴様が未来永劫この旧校舎に閉じこもると決め、あの駄肉のごとくマイルームへ引きこもるというのなら分からなくもないが。  ここで過ごす日々も残り僅かとなった今になって、我と貴様だけしかいないこの部屋でわざわざ仕切りをする意図はなんだ?」 「いや、まあ……ギルガメッシュと私しかいないからこそ、目隠し欲しいなと思ってですね」  いちいち指摘ごもっともと思いつつ、黙っていればいいのについぽろりと本音を漏らしたら、今度はほう、と目を細めるギルガメッシュ。その唇の端がにやりと笑みを形作り、 「ということはだ、雑種。貴様はマイルームでのあられもない姿を全て我に見られているというこの状況に、ようやく一片の羞恥を覚えるようになったのだな」 「あ、あられもない姿!?」  いきなり何を言い出すのかと思ったら、眉目秀麗な王様はニヤニヤと顔中で笑いながら続ける。 「全くあまりにも遅きに失した成長ぶりに言葉を失うぞ。  もとより未熟なマスターとは心得てはいたが、よもや羞恥心すら未成熟であったとは。道理で、毎日毎晩、かくも寝穢ない姿を我の前にさらし続けたものだ。  中身はともかく見た目は年頃の乙女の姿をしていながら、下着が見えるのも構わず床の上で惰眠をむさぼる様は何ともはや……。仮に貴様に恋をした女どもがあれを目にしたならば、百年の恋も醒めようというものだろうよ」 「なっなっなっ、」  滔々と語られる言葉に、私はカッと赤くなってしまった。  しっ下着って、そりゃこの制服スカートがだいぶ短いから気をつけなきゃいけないんだけど、そんな丸見えになるほど寝相悪くないし、寝る時も起きる時も足先から肩まで毛布かぶってますしーー!!? 「それはな、あまりにも貴様の寝相が見苦しい故、我が手ずからかけ直してやっているのだ。我の寛容に感謝と尊敬を捧げろよ、雑種」  …………。  尊大に腕を組んで上から物を言う傲慢王に何を言ったところで無駄なのは、これまでの経験でようく分かっている。  そこまで寝相悪かったっけ私、ギルガメッシュが大げさに言ってるだけじゃないの? という疑問も湧いてきたけど、あの楽しそうな顔を見れば、突っ込めば突っ込むほど、どつぼにはまるのは火を見るより明らかだろう。  なので、さっさと退散することにする。君子危うきに近寄らずだ。 「……じゃあこれからはそんな見苦しくなくなりますからね、この仕切りもお目こぼしください、それじゃお休みなさい」  カーテンの向こうへ滑り込み、桜が気を利かせて設置してくれたらしいソファへ有り難く腰掛け、ようとしたら、 「無駄なものを我の居る空間に持ち込むなと言っているのが分からないのか、雑種? 貴様が個室を得るなど四千年は早いわ」  ギルガメッシュがカーテンを掴んで引っ張ったので、カーテンレールの一部がばきん! と嫌な音を立てて壊れ……ちょっと何してんのこの人ー!?  私は慌ててギルガメッシュの腕にすがって、それ以上の破壊工作を止めようとする。 「個室もらうのに四千年って時間かかりすぎだと思う! というか、ギルガメッシュだって私が……丸出しで寝てるの見たくないんでしょ!? ならカーテンあった方がいいじゃない!」 「貴様は阿呆か? 我は見たくないとは言っていないだろう」 「なんで!? ぱんつ見たいの!!?」  しれっと返ってきた言葉が意味不明。思わず勢いよく聞いたら、ギルガメッシュはぐいと上半身を曲げて、私の顔を覗き込んできた。鮮烈な赤い瞳が突然間近に迫って、思わず息を飲んでしまう私に、 「以前BBめにも言ったはずだ。貴様の全ては我のもの、なれば何事も包み隠さず、貴様の全てを我にさらす事に何の問題がある?」  まるで毒々しい蜜をたっぷりかけたような甘い声で、噛んで含ませるようにギルガメッシュが囁く。 「いいか、雑種。貴様は我の深層心理にズカズカと入り込み、我のSGを3つも取得して我の秘密を暴いたというのに、己の痴態は隠したいなどと、都合の良すぎる言い分であろうよ。我の前では隠し事を禁じる。何もかも有り体にさらすがよい」 「っ……」  何もかもを見通す強烈な眼差しから視線をそらすことさえ出来ず、ぞわりと背中が粟立つ。  なんだこの感覚。いつもの、絶対的な裁定者に対する恐怖とは違う。  指先がちりちりするような、胸の奥がざわざわするような、頭がのぼせてぼうっとしてしまうような――思わずふらふらとよろけ、ソファに腰が抜けたように座り込むと、ギルガメッシュはふんと鼻で笑い、カーテンを払いのけた。 「では好きなだけ休息するがよい。ただし寝ぼけてそこから床に転げ落ちたとしても、我は助けぬからそのつもりでな」  ……助けなくていいから、ギルガメッシュも寝て下さい。一晩中ずっと観察するとかまじヤメテクダサイ……。  そう言ったところで無駄なんだろうなと悟ったので、私は渋々横になって、毛布を頭までかぶった。スカートと毛布を足の間にしっかり挟んで、今日は絶対絶対、下着丸見えなんて状態にしない! と固く心に誓って目を閉じる――前に、そろっと顔を出してみると、そんなことは予期してたと言わんばかりにばっちり、ギルガメッシュと視線が合ってしまった。 「どうした雑種? 我が添うてやらねば、寝る事も能わぬか? マスターの勅命であるのなら致し方ない、王たる我が直々に――」 「結構ですお休みなさいおうさま!!!!」  慌ててぎゅっと目を閉じ直したけど、何か眠れる気がしないですAUO様!!! テンプレーションな雑種をからかうのは楽しいギルガメッシュ的な。