振り返れば

「う~ん……」
 居酒屋で一角と待ち合わせた雪音は、水を飲むように一杯目を空けた後、何やら思わしげに唸った。
「何だよ、浮かない顔だな」
 珍しいこともあるものだ、とお通しをつつきながら一角が尋ねる。雪音は気のない返事を返してから、
「そうだ、一角。ちょっとお願いがあるんだけど」
 何か思いついた様子でこちらを見た。
「おう、何だよ」
 何の気なしに答えた一角だったが、
「あのさ、あたしの事襲ってくれない?」
「ブバッ!」
 とんでもない事を言われて、思わず酒を噴出した。
「うわ、汚い! 何ふいてんのよ、あんたは!」
 しぶきがかかりそうになって、身を引いた雪音が非難がましく言うが、文句を言われる筋合いはない。一角はむせながら、
「お、お前が変な事言うからだろ!? 何だよ襲えって、お前実はそういうプレイがお好みかよ」
「ガフッ!」
 今度は雪音が息を詰まらせる番だった。
「違うわあほ、何だプレイって! 変な想像するな!」
 だん、と拳を卓に叩きつけ、真っ赤になって否定してくる。
「じゃあ、何なんだよそりゃ」
 一角が問うと、雪音は気を取り直して咳払いをした。
「いや、あのね。さっきちょっと気になる事があったのよ」

 それは、雪音が仕事を終えて、待ち合わせ場所の居酒屋へ向かって歩いていたときの事だった。
 瀞霊廷の外、南流魂街十二地区にあるその店は、店主が以前、瀞霊廷の貴族の家で板前をしていたという噂もある無口な老人。
 そこでしか味わえない魚料理が、通の間でひそかな人気を呼んでいる。
 しかし流魂街という場所柄、近辺はあまり治安が良くないため、周囲に柄の悪い連中もうろついている。
 雪音がそういった連中に捕まったのは、店まであともう少しというところだった。
 普段なら、死神の死覇装はこういったチンピラ避けに使えるので、絡まれる事は無い。
 だが、雪音を取り囲んだ男達は軒並み、正気をなくすほどに酔っていたらしい。
『こんなところを一人歩きなんざ危ねぇなぁ』
『嬢ちゃんみたいなカワイコちゃんがふらふらしてると、俺らみたいなのに絡まれるぜ~?』
『なぁ、ちょっと一緒に遊ぼうぜ』
『……はぁ。独創性のかけらもない……』
 まるで台本でもあるかのように、分かりやすい絡み方をする連中で、雪音は思わずため息をついた。
 あきれ返ったその様子が癇に障ったのか、男達の一人が雪音の胸倉をつかんだ。
『あぁん? 何だそのツラは? お高くとまってんじゃねぇぞ、コラァ!』
 頭二つ分も大きい男にぐいと引き寄せられ、足が地面を離れる。眼前で唾を飛ばして罵倒され、雪音はムカッとした。
『つば飛ばすんじゃないわよ、離せっ!』
 ドッ!
『うがっ!』
 怒鳴りつけると同時に胸倉を掴む手をぱん、と弾き、空に浮いたまま男の体を蹴り飛ばした。
 吹っ飛ばされた男は、ごろごろごろと勢い良く地面を転がって壁に激突し、そのまま白目をむいて気絶する。
『て、てめぇこのくそ女!』
『ぶっころせ!』
 か弱そうな女に仲間が一撃で倒されて、頭に血がのぼったのだろう。
 それまで好色な笑みを浮かべていた男達は、怒りに顔を紅く染めながら襲い掛かってきた。
 しかし最弱の四番隊といえど、死神として様々な戦闘訓練をつみ、いまや席官となった雪音が、酔っ払い相手に後れを取るはずがない。
 数分の乱闘の後、雪音はごろごろ倒れた男達の中で、一人悠然と着物のほこりを払っていた。
『ったく、相手を見て喧嘩売りなさいっての』
 運動にもなりゃしない、とその場を立ち去りかけて、しかし雪音はふと違和感を覚えた。
『……?』
 気絶した連中を見回し、じっと見つめ、数を数えてみる。一、二、三、……六、七。
『あれ? 七人?』
 もう一度数えなおしてみるが、結果は同じだった。雪音は自分が倒した数を思い返してみたが、何度数えても六人しかいない。
 途中で加勢が入ったわけではないのに、なぜ一人余計に倒されているのだろう。
『んん……あっ』
 更に見直して、雪音はハッとして男の一人に駆け寄る。
 仰向けに倒れたその男はひくひく痙攣していて、肩の辺りがやぶけ、じんわり、と血がにじんでいた。

「……で、診てみたらそれが、明らかに刃物の傷だったのよ。
 しかも毒付だったみたいで。まぁ、ほっといても問題なさそうだったから、そのままにしておいたけど」
「お前な……道すがらに喧嘩してくるなよ……」
 あっけらかんと話す雪音に、一角はげんなりした。
 いくら死神とはいえ、こんなのでも一応女だ。
 黙ってやられろとは言わないけれど、せめて事を荒立てずに逃げるとか、そういう選択をしてほしいと思うのだが、
「だって、鬱陶しかったんだもん」
 至極あっさり言われ、あぁそうですか、と一角は呆れた声をもらした。
「まぁいいや、それで?」
 ひとまず話を促すと、だからね、と雪音はきすの天ぷらをつまんだ。
「とにかく、そいつらの中で、刃物を持ち出した奴なんていなかったからさ。
 誰かが手を貸してくれたんだと思うんだけど、あたり見ても誰もいなかったの。
 で、よくよく見てみたらその毒も、そんじょそこらで簡単に手に入るものじゃないっぽかったんだよね」
「あぁん? てぇと?」
「服に紫の染みが出来てたから、意識喪失・痙攣・貧血の症状とあわせて考えたら、多分蝶鱗ちょうりん毒だと思う。
 きちんとした設備が無いと生成できない麻痺毒だから、流魂街のチンピラが手に入れられるようなもんじゃないの」
「……へー。そうかよ」
 話を振ったのは自分だが、毒の話を聞きながら食事をするのは何となく落ち着かない。
 もうちょっと、時と場所を選んで話して欲しい、しかもそんな生き生きした目をしないでほしい
 そう思いながら一角は猪口を卓に置いた。
「じゃ、何か。通りすがりの死神かなんかが、お前を助けたってわけか」
「なのかなぁ、と思うんだけど。でも、何か変な感じするのよね」
 テンションが下がった一角に気づかず、雪音は小首をかしげた。
「その後まっすぐ、ここに来たんだけど、どうも誰か、ついてきてるような気がするような」
「あん? 何だ、その助っ人が後つけてきてるってか?」
 一角はそれらしい人物がいるかと店内を見回してみるが、目に入るのは、料理に舌鼓を打っている普通の客ばかりだ。
 妙な霊圧を放ってるような奴もいない。
「うーん、気のせいかもしれないけど……」
「助っ人ならとっとと顔出して、恩でも何でも売りゃいいもんだがな」
「あんたなら、そりゃあ恩着せがましくゆすって来そうよね」
「うるせぇ。で、そこまでは話分かったけどよ。さっきの襲えってのは、それとどう関係してくるんだよ」
「あぁ、そうそう。だからね」
 雪音はぽん、と手を叩いて言った。
「良い人か悪い人か知らないけど、こんなふうに後つけられるのなんて嫌だから、引っ張り出してみたいなぁと思って。
 また誰かに襲われるような事があれば、また手助けが入るかもしれないじゃない?
 だから、一角があたしを襲うふりして、助っ人がひょっこり出てきたところを、捕まえたいと」
「ちょっと待てこら」
 名案! といわんばかりにニコニコ笑う雪音の額に、一角はべし、と手刀で突っ込みを入れた。
「それ、下手したら俺が毒にやられるって事じゃねぇか。何勝手に人をおとりにしようとしてんだ、オイ」
「えー、大丈夫だってぇ」
 雪音は無責任にひらひらと手を振って断言する。
「一角はケダモノ、もとい獣の勘が鋭いから、刃物飛んできたらすぐ気がつくって☆」
「人に頼み事する気があるんなら、ケダモノ呼ばわりするんじゃねぇよ!!」

 そんなこんなで、食事を終えた二人は、とっぷり夜が暮れた流魂街をふらついた。
 あの後いつもの口論をした後、結局雪音にねじこまれて、一角はこの帰り道で彼女を襲うふりをする羽目になってしまった。
(ったく、何で俺がこんなことしなきゃならねぇんだ)
 ぶつぶつ言いながら周囲を探ってみる。
 先ほどと同じように霊圧は感じられないが、よくよく気をつけてみると、確かに何かこそこそした気配がする。
 戦闘経験が少なく、霊圧も読めない雪音はともかく、研ぎ澄まされた一角の感覚でも、集中しなければ分からない程だ。
(こりゃ、よっぽどの奴だな)
 油断していると、本当に下手を打つかもしれない。しかしこいつを引っ張り出せば、なかなか面白い戦いが出来そうだ。
 一角はうんざりした気分を改め、口の端に笑みを浮かべながら、前を歩く雪音を見た。
 これから始まる芝居のためか、妙に明るい声で歌を歌い、上機嫌を装っているが、何となく不自然だ。
「お前、わざとらしいぞ」
 小声で言うと、雪音はこちらを振り返って何よう、と声を絞って返事する。
「普段通りにしなきゃ、バレちゃうじゃないの。いいからほら、早くしてよ」
「お前のそれがもう、普段通りじゃねー……。ったく、んじゃ始めるぞ」
 ざ、と地面を蹴って、一角は雪音の背後からガバッと抱きついた。
 雪音の体が腕の中にすっぽりおさまって、あれこいつこんなに小さかったっけ、と思った一角は、
「うきゃあ?!」
「うお!?」
 演技とは思えない雪音の甲高い悲鳴に、思わず驚きの声をもらしてしまった。
「な、何すんのよ、ちょっと!」
 雪音の思いがけない非難に、一角は面食らう。
「何って、お前襲うふりしてんじゃねぇか」
「ば、馬鹿、襲うってのは斬りかかってくるとかそういうのでしょ!」
「あ、そうなのか?」
 てっきりこういう事だと思っていたので、間の抜けた返事をしてしまう。
「そ、そうに決まって、ってちょっとあんたどこ触ってんのよ!」
「ん? って、あ」
 一角は自分の手を見下ろして動きを止めた。雪音がじたばた暴れたせいで、最初腰にまわしていた手がその上にずれて、胸に。しっかりと。
「い、いやー! 変態ぃー!! はなせ~~~!」
 本気で顔を真っ赤にして、雪音はさらにもがいた。
「ば、馬鹿、落ち着けって、今離すっ……!」
 慌てた一角が雪音を解放したその時、ヒュ、と風を切る音が耳に届いた。
「!」
 ばっと上体を後ろにひくと、鼻先を細い小刀が掠める。それが視界から消えるより先に、一角は飛んできた方に潜む影を見つけた。
「そこか!」
 地面をえぐる勢いで、そちらへ跳ぶ。影は身を翻して逃げ出したが、身構えていた分、一角の動きの方が早かった。
 あっという間に追いつき、服の端をつかんで力任せに引き、抜いた刀を首に突きつける。
「くっ」
「人の後こそこそつけまわしやがって、てめぇ一体……あん?」
 鋭い誰何の言葉は、途中で止まってしまった。
 一角に羽交い絞めにされた男は、目元以外の全てを隠した黒装束に身を包んでいる。
 実際会った事はなかったが、この格好をしている人間がどういう仕事をしているか、知識として知っていたから、
「てめぇ、隠密機動の奴か?」
 まさかと思いながら尋ねると、男はびくっと身じろぎして、一角の足を踵で踏みつけた。
「いてっ!」
 さほど痛くはなかったが、不意の攻撃に驚いて手の力を緩めてしまった。男は一角の腕の下からふっとすり抜け、そのまま走り去ろうとする。
 が、後から追いついてきた雪音に進路を阻まれた。
「雪音様、あっ!」
 とっさに名前を呼んだ、という雰囲気で、男が硬直する。息を切らして足を止めた雪音は、ぎょっとして目を見開いた。
「何、あんた誰? 何であたしの名前を知ってるの?」
「……!」
 狼狽した男は他の方角へ足を向けかけたが、しかし一角がすばやく足を払い、地面に転ばせた。
「うぐっ」
「じたばたすんじゃねぇ、この野郎!」
 背中をだんっと踏みつけて一喝する。その荒っぽさに、雪音がちょっとやりすぎ、と注意したが、こうでもしないとこの男は逃げてしまうだろう。
「てめぇ、どうやら雪音と知ってて、後つけまわしてたみてぇだな。何のつもりでンな事してたのか、吐けコラァ!」
「う、うぐぐっ……!」
「い、一角一角、それじゃ息できないってば!」

 その日の夜も遅く。常ならば早々に寝付くため、この時間にはすでに真っ暗になっているはずの総隊長の私室は、時ならぬ客人の訪れで、煌々と明かりをともしていた。
 寝巻きに着替えた山本は、前に座した雪音の顔を見て、ひげを撫でると、
「むう。バレたか」
 どこか拗ねているような声で呟く。
「バレたか、じゃありません!」
 対して雪音はきっと眉を吊り上げ、脇に控えて小さくなっている男を指差す。
「この人があたしの後つけまわしてたの、お爺様のご命令って聞いたんですけど!」
「梅、口を割ってしもうたのか」
「は……申し訳ございません。話さねば、砕蜂総司令官へ掛け合うと雪音様が仰られまして……そこまでの大事にしては、と」
「むう、致し方ない。まぁそう怒るな、雪音」
「これまでずうっと、朝となく夜となく、知らない人が付きまとってたなんて知ったら、怒るに決まってるでしょう!
 何でそんな事命令してるんですか、あたしの監視ですか?!」
「いやいや、それは違うぞ、雪音」
 山本は慌てたように手を振って否定した。悩ましげに眉を八の字に描き、
「わしはのう、おぬしの身が心配でならんのじゃ。
 前々から思っておったが、おぬしは普段しっかりしておるが、時々周囲に対する警戒心が全く欠けてしまうじゃろう。
 特に酒を飲んだ時の無防備ぶりは酷い、あれではおぬしの身になんぞ間違いが起きてしまうやもしれぬ」
「……そこはまぁ、否定できないですけど」
 痛いところをつかれて、勢いをそがれる雪音。
 山本はそうじゃろう、と我が意を得たりとばかりに大きく頷いて、
「じゃからの、万が一にもおぬしの身に危険が及ばぬよう、そこの梅がぼでぃーがーどとして、つかず離れずおぬしを守っておったのじゃ。
 おぬしは気づかなかったろうが、梅が間一髪のところを助けたことは、これまで何度もあったんじゃぞ」
「何度もって……。……ちょっと待ってください、お爺様。もしかしてこの間、しつこくナンパしてきた男が、いきなり泡吹いて倒れたのは……」
「うむ。梅の手柄じゃの」
「七年前、付き合ってた人との別れ話がこじれて殴られそうになった時、謎の爆発で吹っ飛ばされたのも」
「あれはひどい男じゃったのー。誠実そうな奴と見ておったのだが、ただの小心者で」
「…………お・じ・い・さ・まぁぁぁ!」
 雪音はバンッ! と卓を叩き、怒りの形相で山本に怒鳴りつけた。
「自分の身くらい、自分で守れます! 日常生活でひそかに人につけまわされるなんて、絶対嫌です! 今後一切、こんな事は止めてください!」
「し、しかしのう、雪音」
「問答無用!」
 言い募ろうとするのを、指を突きつけて黙らせる。
「お爺様には色々とお世話になりましたが、それとこれとは別!
 もしまた、こんな事してあたしの生活を脅かすような事があれば、今後一切、お爺様とのお付き合いをやめさせてもらいます!」
「な、なんじゃと?! それは何か、もうおじいちゃんとは呼んでくれぬということか!」
「当然です! おじいちゃんが孫の監視なんてしないでしょうが!
 というかそもそも、総隊長という責任ある立場で職権濫用するなんて最低です! 見損ないました!」
「うっ、く……」
 山本と雪音はそのままにらみ合った。が、やがて山本ががっくりと肩を落とし、
「……分かった、おぬしの言うとおりじゃ。今後はこのような事は一切しない。わしの名に賭けて誓おう」
 渋々、といった様子で宣言する。
 雪音はなおも疑わしげに山本を見ていたが、あんまりにもしょぼんとした様子が哀れだったので、ため息をついた。
「分かりました。じゃあ、今日はこれで失礼します。
 夜分遅くに突然、申し訳ありませんでした」
 くるっと背を向けて部屋を出る。
 かつてないほど激怒した雪音が機嫌を直してくれた事にほっとして、胸をなでおろした山本だったがしかし、
「……明日、誓約書持っていきますからね!」
 思い出したように戻ってきた雪音から強い口調で放たれた言葉に、もう一度肩を落として、
「……うむ、分かった」
 小さな声で呟いたのだった。

 門柱によりかかって夜空を見上げていた一角は、地面を噛むような強い足音を聞きつけ、身を起こした。
「よう、話はついたのか」
「一応ね……」
 雪音はまだ怒りが去らない様子でぶっきらぼうに言い捨て、門をくぐってそのまま歩き続ける。肩を怒らせた後姿に、
(総隊長、こいつの逆鱗にふれちまったみてぇだなぁ……)
 と思いながら、一角は声をかける。
「落ち着けよ、雪音。向こうだって、悪気があってした事じゃなかったんだろ?」
「あたしに何かあった時のために、張り付かせてたって言ってたけど」
「ははぁ、なるほどな。過保護な総隊長らしいじゃねぇか」
「悪気がなきゃ何してもいい、ってもんじゃないわよ。あり得ない、信じられない」
「ま、要はお前の身を案じてだろ。
 やり方はそりゃあ、まずかったかもしれねぇが、そんだけお前の事可愛がってるって事じゃねぇか。
 怒るのも仕方ねぇけど、あんまりとっちめてやんなよ。じいさん凹むぞ」
「……」
 雪音はふう、と息を吐き出して、歩調を緩めた。
 一角が横に並ぶと、表情はまだ不満げだったが、うっすら頬が赤くなっている。
「……分かってるわよ、心配してもらってるのは。
 あたしなんかに目にかけて、大切にしてくださるのは、本当にありがたいことだと思ってる」
 だけど、と再び眉間にしわを刻んで、雪音は拳を握り締めた。
「今度のはどー考えてもやりすぎでしょ! あたしが知らなかっただけで、これまでやってきた事全部、総隊長に筒抜けだったのよ!?
 昔の彼氏の話まで知ってて、あたしは顔から火が出る思いだったわよ!」
「あー……」
 これはさすがにフォローできない。言葉を濁して半笑いを浮かべた一角は、彼氏という言葉でふと連想するものがあって、何も考えずに口に出した。
「そういえば、お前よ」
「え?」
「意外と胸デカイんだな」
「……」

 次の瞬間、様々な怒りを込めた雪音の拳が、一角の顔にめりこんだのは、言うまでもない。

*おまけ*

「ってぇな、何しやがる!」
「な、何しやがるじゃないでしょうが! 何つー事いってくれてんのよ、このあほ!」
「殴るこたねぇだろ! つか、何で俺が殴られなきゃならねぇんだよ!」
「あ、あ、当たり前でしょ!? 思いっきりセクハラ発言じゃない!」
「あぁ? 何だよ、小せぇよりいいだろが」
「そういう問題じゃない!」
「どういう問題だよ! つか、ガキじゃあるまいし、胸触ったくらいでギャーギャーわめくなよ、減るもんじゃねぇだろ」
「ガキじゃないから問題なんでしょうが、っていうか減るから触るな!」
「何で減るんだよ!? むしろ揉まれりゃ増えんだろうが!」
「~~~~~~黙れこの変態~~~~~~~~!!!」