test花のうへの露13

「さぁ、教えてもらおうか。てめぇらのどっちが、オレの目を盗んで、奥州で悪さをしてやがるのかをな」  笑いの中に怒気を含んだ政宗の声を聞きながら、小十郎は小太刀を放った手を下ろした。襲撃者を追って分け入った山中、ようやく見…
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test花のうへの露12

 闇に覆われた森に、雨が降る。枝葉にふれ、さわさわと衣擦れのような音を立てる雨は冷たく、じわりじわりと体温を奪っていく。 (雨は嫌いだ……篠突く雨など、以ての他だ……)  山道を進みながら、男は心中で呻いた。濡れるのも構…
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test花のうへの露11

 異常の知らせを受けた小十郎は、すぐさま政宗へ報告にあがった。二人は机の上に地図を広げ、向かい合ってのぞき込む。  太い線で奥州のおおまかな地形が描かれた地図には朱のばつ印が描かれ、それは小さなものも含めて五つを数えた。…
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test花のうへの露10

 雲が少しずつ空を覆い始め、遠くから湿った匂いが風に乗ってやってくる。 (遠からず、雨になりそうだね)  その光景を縁側に座して見上げ、朝顔は目を細めた。冷えすぎて雪にならなければいいが、と足をさする。手厚い看護のおかげ…
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test花のうへの露9

 書状が届いて二日後、伊達屋敷は新たな客人を迎え、緊張の空気に包まれていた。  やってきたのは、徳川家康その人。かつては織田、豊臣の配下となり忍耐を強いられ続けた若き少年であったが、今政宗の前に座したその姿は、見違えるほ…
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test花のうへの露8

 自分の身体の一部のように馴染んだ手中の重み、地面に向けて延びるその先端までを意識しながら、政宗はゆっくりと刀を正眼に構えた。  目はうっすら雪が残る境内に向けられているが、見ているものはそれではない。  息を吸う、吐く…
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test花のうへの露7

 まだ春には早い時分、風は冷たい。しかし久しぶりに全身で外の空気を感じ、朝顔は生き返る心地だった。 「あぁ、いい気分だ。晴れてて気持ちがいいねぇ」  すう、と胸に思い切り息を吸い込み、吐き出す。  空は透き通るほどに青く…
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test花のうへの露6

 次の日から約束通り、小十郎は毎日朝顔のところへ来るようになった。そして半刻ほど、他愛のない雑談をしていくだけなのだが、やはり一人でいるよりは楽しくて、動けずくさくさした気分が上向いてくる。それ故に朝顔はいつしか、小十郎…
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test花のうへの露4

 伊達屋敷に身を寄せて、はや七日。療養のために用意された部屋で、朝顔は退屈しきっていた。 「ん……ん、ん~~っ」  午睡から目覚め、布団の中で身体を伸ばした。頭の上に広げた腕をだらり、と床に落とし、天井を見上げて、 「……
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test花のうへの露3

 義姫の土産と旅の女を持って、小十郎は伊達屋敷へと帰着した。女の手当を館の者に託し、自身は真っ先に政宗のもとへ向かう。 「よぉ、小十郎。ご苦労だったな。母上のご機嫌はどうだった?」  政宗は自室で六爪の手入れをしていた。…
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