test甘く溶かして

 休日の午後、ホテルラウンジは穏やかな喧噪に包まれ、静かな時間が過ぎていく。  入り口に立てかけられたスイーツビュッフェのポスターに惹かれるように次々と客が訪れる中。  青青とした緑の庭園を目の前にした、窓際の席に陣取っ…
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testあかぬ君にも

「あ……待って、右目の旦那……」  かそけき声と共に白い手が小十郎の腕を止める。閨に横たわる女、その腰帯に触れていた小十郎は、 「……気分でも悪いのか」  宴で酒が進みすぎたのかも知れないと、はやる心を抑えて問いかけた。…
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test花のうへの露51

 うららかな陽気の日、森の空気は清浄で心地が良い。さわさわと木々を撫でて通り過ぎていく風の音に耳を楽しませながら、 「今度の事で思い知ったけどさ、人間、無理に我慢しちゃいけないね。まぁ、側にいられるだけでいいと思ってたの…
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test花のうへの露50

 日が傾き、障子を透かす陽光が形を変え、影が少しずつ畳の上に伸びていく。  遠くに鳥の声が響く穏やかな静寂の中、小十郎は壁に向かって一人猛省していた。 (俺は……俺は何という不心得者だ! いくら政宗様から許しを頂いたから…
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test花のうへの露49

 俺は、身の内に潜む鬼を、恐れている。  理性という鎖を食いちぎり、暴れ回ろうとするこの鬼を、どうしようもなく恐れているのだ――  政宗に命じられて帰路についた小十郎は、道すがらため息を何度もついていた。  日は高く、爽…
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test花のうへの露48

 天下分け目の戦は、東軍の勝利にて幕を下ろした。  総大将を失い混乱状態となった西軍に対し、徳川家康は降伏を呼びかけ、各陣営はその勧告をおとなしく飲む。果たして、日ノ本の頂には徳川家康の名が掲げられ――だが、それも一時の…
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test花のうへの露47

 これまで生きてきた中で、声をあげて泣いた経験など、ほぼ皆無に等しい。だから朝顔は知らなかった。  涙も空っぽになるほど泣いた後がこんなに苦しくて、体がだるくなるほど疲れて、心がまっさらになってしまうなんて。 「はっ………
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test花のうへの露46

「――Stop Daydreaming, 小十郎。気をしっかり持て」 「!」  ドンッ、と強く肩を叩かれ、小十郎は我に返った。  はっと視線を向けた先では、まっすぐ前を見つめる政宗の凛々しい横顔がある。先ほどまで毒霧の影…
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test花のうへの露45

 これが最後の仕事。最後の任務。  故に必ず成し遂げるのだと、覚悟を決めていた。  もしその結果が死であろうと、いっこうに構わなかった。  草はもとより、死を恐れる心など持ち合わせていないのだから。  火花を散らして、三…
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test花のうへの露44

 風が荒れ狂う。まるで剛腕を振るうかのように突然巻き起こった強風は、どっしりと渦巻いていた霧を掃き散らし、白い闇を払った。 「っ!」  その霧と共に吹き飛ばされた影が一つ、空中でくるくると回転すると、地面に這うほど低い姿…
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