testファースト・コンタクト

 その名を知ったのは、メガロニア開催まで二か月を切った頃だった。 「おばちゃん、はよっす。新聞一部、頼むわ」  よく立ち寄るニューススタンドの前にバイクを停めたキャットが声をかけると、顔見知りの店主がはいはい、とにこやか…
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testコール・トゥ・エンドA/B

 その日、藤巻は場末のバーで人を待っていた。  今にも崩れ落ちそうな薄汚い店は、彼の好みではないが、たまにふらりと訪れる。昔まだここが流行っていた頃、よく足を運んだからだ。  まだ何者でもない若造だった自分には、ここの安…
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testコール・トゥ・エンド

 その日、勇利がシャルの無断欠勤を知ったのは、昼近くになってからだった。 「勇利、キャットがどこにいるか知らないか? 連絡なしに休んでるんだが」 「……いや」  ジムのトレーナーに聞かれて首を振った勇利は、一人になってか…
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testコール・ユー

 斜めに崩れた看板の酒場は、廃墟のようでいて、一応はまだ営業の灯りをともしている。  古い木戸を押せば、油の切れた蝶番が大きなきしみを立てて、無遠慮に来訪者の存在を知らしめた。  それを押しのけて一歩足を踏み入れると、ア…
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testゴー・バック・トゥ

 廊下の遠く、スタジアムではまだ、熱狂さめやらぬ観客のざわめきが響いている。  かすかに届くそれを聞きながら、キャットは控え室の扉をごんごん、と叩いた。  少し間があって、ぱたぱたと小さな足音がしたかと思うと、きしんで開…
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testスウィート・トーチャー

 資料室で手にした本は、これまで持った中でも特別に厚く重く、支えるのも困難だ。  仕方なく本棚に背を乗せてページをめくるが、ぎっちり詰め込まれた文字の大群に襲われ、複雑怪奇な図解に頭がくらくらしてくる。 「うっ……く………
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testラッピング

 ある日の白都ジムにて、選手たちの会話。 「よう、久しぶりだな。怪我の具合はどうだ」 「まぁまぁだな。次の試合には何とか間に合いそうだ。そっちはどうよ」 「俺ぁ万全よ。今度勝てば三十位以内に食い込めるから、気合い入れねぇ…
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testアラート・フォー・ディフェンスレス

「……あっ、こら、動くな! まだ全然乾いてないだろ!」  ぎゅむ、と首の皮を掴み、足を体に回してホールドすると、犬が不満そうに鼻を鳴らした。  今にも逃げ出しそうだが、その全身を覆う毛皮はまだべったり濡れていて、とても手…
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testリフレクション

「二ラウンドKO。二分十秒、ヒット七十二、トータル……」  スパーリングマシンが終了し、機械的に結果を読み上げる。  それを聞きながら勇利は背を向け、低酸素マスクの内側で息を吐いた。  トレーニングの合間に一息つくか、と…
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