――我ながら、単純だと思う。
そう自嘲してしまうのは、先日ファルを紹介した南部に、うまくやれよと発破をかけられた途端、彼女を女として意識するようになったからだ。
(再会してからずっと、良い友人関係を保ってきたつもりだったのに)
そう思いながら、アラガキは酒を煽りつつ、ちらりと視線を向けた。
カウンター向こうのファルはいつものように伏し目がちに佇み、グラスを磨いている。
バーは穏やかな静寂に満たされていて、いつ来ても居心地がいい。
橙色の光を柔らかく散らす照明の下、年月を経たブランデーのような、深いこげ茶の木製カウンターだけの小さな店内。
その向こう側の壁面には天井近くまでディスプレイ棚が埋め込まれ、数え切れないほど多種多様なボトルが並んでいる。
ここを訪れた南部は店の雰囲気やファルを気に入ってくれたが、眼が見えたのなら、この規模の店舗では考えられないほど豊かな品ぞろえに感嘆の声を上げただろう。
聞けばオーナーは大企業の元会長だとかで、この店は道楽でやっているらしい。
カウンターも棚も照明もグラスも何もかも、店内の設備は全て品のある一級品を揃え、玄人も唸るような酒の品々は趣味で蒐集してきたものだという。
それを知ればなるほど、繁華街から外れた場所にあるにしてはリッチな印象を受ける店に仕上がっている訳だ、と納得できる。
(それに恐らく、ファルの存在も大きいんだろうな)
オーナーに信頼されているのか、店を一人で切り盛りしているファルは、昔とはずいぶん印象が違う。
長い髪を後頭部でまとめ、白と黒のみで構成されたバーテン服はすらりと華奢な体を包み込んでいて、実に様になっている。
常に微笑を称え、どこか夢見がちな瞳で穏やかに相手を見つめ、緩やかに相槌を打ち、返事も押しつけがましくなく優しい。
今にも消え入りそうな儚さは、穏やかな静寂に満たされた店の空気を乱さない。
その存在の全てが、この店にしっくり馴染んでいて、もうずっと昔からここで働き続けていたようにさえ思える。
(ファルにとって、これは天職なんだろう)
それを、アラガキも嬉しく思う。
初めて出会った時は自分の苦しみに惑溺していたから、彼女を救うことが出来ずじまいで、それがずっと心に引っかかっていた。
もし再び出会えたなら、例えおせっかいと言われても、今度こそ彼女を助けようと、アラガキは秘かに考えていた。
それは遅きに失して、再会したファルはすでに新しい生活を築いていたから、やはり自分の無力を感じざるを得なかった。
だが、一方で喜ばしくもあった。
昔は人を恐れ、たどたどしく語っていた彼女が、客とそつなく会話をこなせるまでに成長したのは、健気に努力した結果なのだろう。
再会の喜びと、ファルが自身の人生を生きている嬉しさに誘われるまま、アラガキは彼女が勤めるバーに通い、いつの間にか常連にまでなっている。
(ファルは、昔と変わりない。ここにいると、あの時の空気を思い出す)
足を失い、自暴自棄に陥っていた自分が唯一、心の凪ぐ時間を過ごした、あの時。
何も語らずとも、同じ空間にいるだけで、安らいでいく感覚は、ここでも同じだ。
これは店の居心地の良さというより、ファルが醸し出す雰囲気によるところが大きいのだろうと実感する。
もしかしたらこの店のオーナーも、そこを気に入ってファルに店を一任しているのではないかとも思う。
だからつい頻繁に来てしまうのだが、アラガキはそれ以上の何かを求めるつもりはなかった。
(昔、一度関係を持っただけ。しかもあれは、ファルが俺を慰めてくれただけだ)
自分は女性関係が豊かといえないが、一度寝た女は自分のものだと勘違いするほど、傲慢でもない。
ファルに好きと言われはしたが、それも昔の事だ。
時間が経てば人の心は変わる。それはアラガキ自身が何よりも理解している。
ファルは再会した自分を拒むことなく、柔らかい微笑を持って受け入れてくれているが、一貫して友人としての態度だ。
そうであれば、自分も同じように振る舞うのが正解だろう。今の穏やかな関係を壊したくはない。
だが、その揺らぎを南部に見透かされてしまうと――どうしても、意識してしまう。
(俺は、ファルが好きなのか?)
自身に問いかければ、躊躇いが答えを引き延ばす。
無論、好感は持っている。感謝もしている。彼女自身を、好ましいと思っている。
だがそれを男女の情かと考えれば、どうしても戸惑いが生じる。
ファルが友人としての態度を崩さないのに、そんな思いを抱え込んでいいのかと、罪悪感さえ覚える。
「――アラガキ。次は、どうしますか」
「! あ、いや……今日は、もう帰らせてもらう」
考え込んでいたら声をかけられて、思わずびくっとしてしまった。
一瞬だけファルへ視線を向け、何となく後ろめたい気持ちになって、すぐ目をそらす。
「そうですか。では――おやすみなさい、アラガキ」
「ああ。また、来る」
会計を済ませていつもの挨拶を交わし、店を出る。
狭い階段を靴音を立てて上がれば、視界が開けると同時に、爽やかな夜気が頬を撫でた。
(……まだ、早いな)
時計を見れば、宵の口だ。
選手を引退したアラガキは今、ジムの後進を指導する立場にある。
深酒をして遅くなっては明日に響く、今日はもう帰って寝るべきだ――と、理性的に考えはした。
――のだが。
(本当に、俺は何をしてるんだ)
道路を挟んだ向かい側。
街灯の明かりがぎりぎり届かないガードレールに寄り掛かり、缶コーヒーを飲みながら、アラガキは自嘲した。
帰ろうと思ったのに、足がどうしても帰路に向かない。
入り口に置かれた店の看板を目にしていたら、離れがたく思えてならなかった。
しばらく逡巡した後、アラガキは近くの自動販売機で酔いざましを買い、人目につかない場所で、店の入り口を眺めて時間を無駄にしている。
(気になるのなら、店に居続ければいい。
こんなたちの悪いつきまといのような真似はすべきじゃない)
もし帰ろうとファルが出てきて気づいたら、さぞ奇妙に思うだろう。
それは分かっていたのだが、どうにも去りがたいのだ。
せめて彼女が帰るのを見送ってからにしよう。声さえかけなければきっと気づかないだろう。
そう一人勝手に決めて、アラガキは缶に口をつける。
少しずつ酔いが冷めていく中、自分の後に店を訪れたのは、男の一人客だった。
一瞬、あの狭い店に彼女と二人きりになるのかと腰を浮かしかけたが、押しかけては迷惑だろうと迷っている間に、男はすぐ出てきた。
入り口に立ち、懐から煙草を取り出して一服。
やがて、こちらまで聞こえてきそうなため息をつく素振りをし、来た時と同じ路地裏へと姿を消す。
(あれも常連か?)
他の客が来ているのは見た事がなかったので、眉を潜める。
バーなのだから当たり前とはいえ、自分以外の男がファルと語らうシーンを想像したら、妙に胸が騒めく。そんな自分が滑稽に思えた。
(一人前に嫉妬か。惚れているのかどうかさえ、わからないのに)
ファルは自分のものではない。自分の気持ちも分からない。
それなのに、他の男が彼女の傍にいたらと思うだけで、苛立ちを覚えてしまう身勝手さに、舌打ちしたくなる。
(俺は本当にみっともない男だな)
過酷なリハビリを乗り越えてメガロボクスに復帰し、南部と再会し、ジョーとの闘いと引退を経て、以前よりはまともな奴になった気がしていた。
だがやはり、性根は変わらないのだろう。
自分はまだ昔のように、つまらない事に拘泥する小さな男だ。
(これでファルに好いてもらいたいと考えるのが、おこがましい)
まずは、店の前で出待ちなんて、やめるべきだ。
空も少しずつ白み始めているし、もう帰ろう。そう思ってガードレールから離れようとした時、
「!」
カツカツカツ、と硬質な音が地下から反響して聞こえたかと思うと、階段を上がってきたファルの姿が目に入った。
手に大きなゴミ袋を持っているところを見ると、店じまいを始めたのだろうか。
段を上り切った彼女は、一度息をつくように立ち止まり、こちらに気づく事なく路地裏へ歩いていく。
ほっそりとした体には荷が重そうな大袋に、手を貸してやりたいと咄嗟に思ったアラガキが、そんな事出来るわけもと首を振った時。
がららんっ、と大きな音が、早朝の静寂を切り裂いた。
「どうして駄目なんだ、ファル。俺の気持ちは分かっているだろう?」
朝日の届かない路地裏で、切実な男の声が響く。
その足元に落ちたゴミいれのふたが、綺麗に磨いた革靴の先に蹴られて、がらんとまた音を立てた。
「……私はバーテンで、あなたはお客様です。それ以上は何もないと申し上げました」
壁と男の間に挟まれたファルは、肩を小さくすぼめながら、ゆるぎない口調で答える。
普段の物柔らかな態度と違う、明らかな拒絶を示されて、男はカッとなったのか、壁に勢いよく手をついた。びくっとするファルへ、
「君が好きなんだ。俺と付き合ってくれ……結婚を前提に。本気で言ってるんだ」
口づけを請うように身をかがめ、言い募る。
間近に迫った顔を避け、やめて下さい、とファルが言う――その声が、毅然さを伴いながら震えたのを聞き取った時、
「おい、あんた。……そこまでにしろ」
割って入るべきかどうか逡巡していたアラガキは、路地裏に踏み込んだ。
は、と息を飲んだのは、二人ともだ。
どうして、というように目を見開くファルの視線を避け、アラガキは男を見据える。
「誰だ、お前は。何の用だ」
むっとしてこちらに向き直った男は、スーツ姿で身なりが良い。背は高く、顔立ちも整っていて、一見してまっとうな相手のようだ。
(ファルに乱暴した連中とは、質が違う)
そして自分よりも質の良い男だ。そう感じてわずかに劣等感を刺激されるものの、
「俺は……彼女の友人だ。嫌がっているものを、無理強いするのはよせ」
それだけを盾に迫る。何を、と男は気色ばんだ。
「これは俺と彼女の話だ。友人だかなんだか知らないが、口出しするな」
「円満に収まるものなら、俺も口出しはしないさ。
だが……ファル。この男との話を続ける気はあるのか」
水を向けると、壁にもたれたままのファルが目を瞬き――いいえ、とゆっくり首を横に振った。真っすぐに立ち直ると、男を見上げ、
「……お引き取り下さい。もうこれ以上、お話は出来ません」
凛と拒絶を伝える。
男は息を飲んだ。何か言おうと口を開き、だが言葉は宙を泳ぎ……やがて、嘆息する。
「分かった。君がそうまでいうのなら……本当に望みはないんだろう。
煩わせて、すまなかった。もう、ここへは来ない」
「ご希望に添えず、申しわけありません」
「……そんな余所余所しい断り文句は、聞きたくなかったな」
男は苦笑し、身を翻した。
ちらりとアラガキを見たが、そのまま奥へ向かって足早に歩き出し、振り返りもせず去っていく。
角を曲がって姿が消え、高らかな靴音が聞こえなくなってしばらくしてから――ようやく、ファルがため息をついて、体の緊張を解いた。
「大丈夫か、ファル」
歩み寄って声をかけると、ファルはええ、はい、と気丈に答えたが、
「…………助かり、ました、が。
アラガキ……あなた、ずいぶん前に、帰ったと思いました」
ゆるりと視線を向けてきたので、言葉に詰まってしまった。
(どう答える。……いや、繕うだけ無駄か)
上手い言い訳など思いつかないから、結局無様な自分をさらけ出すしかない。アラガキは目を伏せ、首をかいた。
「……いや。君が帰るまで、待っていようかと……何となく、思ってな。ずっと表にいた。
……すまない、気味が悪いだろう」
息を飲む気配がしたのですぐに謝罪する。
間を置いて、ファルはしゃがみ込んだ。
あの男が残していったらしい、いくつかの吸殻を拾いながら、いいえ、と静かに答える。
「ありがとうございます。……少し、困っていました」
「……あいつに言い寄られていた……ようだが」
踏み込んでいいものか、今更かと迷いながら尋ねれば、ファルは眉を八の字にして、困惑の微笑を浮かべる。
続く言葉がないのは図星だからだろう。
(よくある事なのか)
口からついて出そうになった言葉の勢いが強すぎて、アラガキは辛うじて飲みこんだ。
ファルが望んだわけでもないだろうに、責めてどうする。
動揺するアラガキをよそに、転がった蓋を拾ってファルが立ち上がり、淡く微笑んだ。
「……悪い人では、ないんです。きらいではなかったから……もう来てもらえないのは、寂しいですね」
諦めと悲しみを含んだ声音は、ファルの優しさから出たものだろう。それは分かる。
ファルは優しい。荒れ狂う男の感情を優しく受け入れるか、嵐が過ぎ去るのを待つように、そっと受け流す。
それはきっと、苦しみの中で生きるしかなかった昔の名残だ。
流されるままだった以前と違い、先ほどのように毅然と拒めるようになったのは、彼女の成長を意味しているのだろう。
喜ばしい事だ。ファルはきちんと自分の意思を表せるようになっている。そう思うのに――
「……あの男を、嫌いでないというのなら。俺は、どうなんだ」
気づけば、アラガキはその問いを口にしていた。ファルが、ふわりとこちらを見上げる。
質問の意図をはかりかねる、というように瞬く青い瞳に見つめられ、視線をそらしたくなったが……
(もう、駄目だ)
一度口にしてしまえば、後戻りはできない。
アラガキはファルを見つめ、心臓がせわしなく跳ねる音を聞きながら、問いを重ねる。
「俺の事は、どう思っている。
あの男のように、嫌いではないから、店に来てもいいのか。
客の一人だから、いつも余所余所しいのか」
「……きゅうに。どうしました、アラガキ」
唐突すぎて、困惑したのか。ファルは吸殻をバケツに入れて、蓋を閉じた。
決死の思いで聞いているのに、普段と変わらない落ち着きを見せる彼女の、繊細な線を描く綺麗な横顔に見とれながら、同時に苛立ちがこみあげた。
アラガキは大きく一歩進み、彼女の正面に立つ。
不意に詰め寄られてたじろいだのか、ファルの表情が先より深い困惑の色を深めた。どうしました、と再度問いかけてきた。
「なにか……怒ってますか、アラガキ」
「怒っているわけじゃない」
「……こわいです」
「っ……、……怖がらせるつもりも、ない。俺は、ただ……」
ただ、知りたいだけだ。今のファルにとって、自分がどういう存在なのか。
少しでも、好意を持たれているのか。それともあの男のように、内心迷惑がられているのか。
それを真っ向から尋ねる言葉を、アラガキは持ち合わせていない。
どういえばこのもやもやした気持ちを表現できるのか苦慮しながら、
「ただ、その……なんだ。
さっきの奴はある程度紳士的だったが、そうじゃないのもいるだろう。
俺がいつでも助けられるわけでもないから……つまり、他にもああいうのが居るのか」
「…………」
しどろもどろの言葉を咀嚼するのに、時間を要しているのか。
ファルは夢うつつのように青い瞳をゆっくりと瞬かせて考え込んだ。そして少し首を傾げ、
「……アラガキ、やいてるの?」
「――!!」
きょとん、とした調子で確信をついてきたので、思わず鋭く息を飲んでしまった。
そうじゃない、違う、俺は困ってる君を見過ごせなくて。
言い訳はいくらでも出来るはずなのに、何も出てこない。
いや、それを口にしようとしたのだが、ファルがあまりにも(まさか、そんなはずない)と言いたげに驚きの表情を浮かべていた、ので。
「………………だったら、どうする」
掠れた声が、口から勝手に漏れていた。
言葉が感情を後押しして、気づけばさっきの男がしていたように、ファルを壁際に追いやっていた。
反射的に避けようとした彼女の両脇に手をついて、逃げ道すら断っている。
これでは怖がらせてしまう。ただでさえ、己は人相が悪い。
まして、男の暴力に虐げられてきたファルにしてみれば、自分より一回りも二回りも大きい男に詰め寄られるのは、恐怖でしかないだろう。
しかもつい先ほど、他の男に言い寄られていたばかりなのに。
(これでは駄目だ)
そうと分かっているのに、止められない。
どうなんだ、と問いを発する自分の声が、どこか遠くで響いて聞こえた。
「ファル。俺が、お前に言い寄る男に妬いてるとしたら、どうするんだ」
「…………」
低い声で責めるように投げつけると、ファルは怯えたように俯いた。
長いまつ毛が影を落とし、困惑と恐れがその表情を曇らせる――と思った時、
「…………こ、まる」
消え入りそうな小声で、ファルが呟いたので、体がぎしっと硬直した。
背中を寒気が駆けあがり、熱暴走する頭が一瞬で冷える。
(断られた)
半ば予想していても、答えを聞いてしまうと、殴られたような衝撃を受ける。
思わずよろけそうになって、みっともない、せめてさっきの男のようにスマートに去りたいと思ったところで、
「…………ずるい」
「!」
彼女が呟いたので、まだ続きがあるのか、と踏ん張った。ファルは、身を守るように両腕で自分を抱きしめ、
「……きゅうに、そういうこと言うの、ずるい。こまる」
視線をそらしたまま、ぼそぼそ続けた。
たどたどしい物言いは昔のファルのようでどきりとしたし、改めて彼女を見れば、俯いた顔には血の気がのぼり、小ぶりの耳まで真っ赤に染まっている。
「ファ……ル?」
明らかに、さっきの男の時と反応が違う。
戸惑って名を呼ぶと、ファルは軽く唇を噛み、そっとこちらを見上げた。青い瞳で上目遣いに見つめながら、
「……南部さんには、ともだちだって、いったのに」
責めるように告げてきたので、なっ、と言葉に詰まった。
「あ、あれは、いや、あの時は、そうとしか言いようがなかっただろうっ」
知り合いというほど希薄ではなく、想い人というほどアプローチをしていたわけでもなく、無論恋人でもない。
であれば、友人としか言いようがない。責められてもこっちが困る。
「そう、だけど。…………そうだったのに。急に、やきもちなんて、ずるい。
アラガキ、わたしのこと気にしてるのかなって、思ってしまうから……こまる」
「……ファル」
再び目が伏せられて、鮮やかな青が見えなくなる。
それを惜しんで、アラガキは無意識に彼女の肩に手を置き、身をかがめて顔を覗き込んだ。
視界に映る彼女は、普段と違う――包み込む微笑など影もなく、波打つ感情に戸惑っているような、困惑と恥じらいの混じった、人間味のある表情をしていた。
(今の俺を、どう思っている)
再度の問いかけは、口に出来なかった。
ただ、自分の前で今、素のファルがさらけ出されているのを目にしたら、躊躇いも苛立ちも嫉妬も何もかも吹き飛んで――
「俺は、お前が好きだ」
――相手の答えがどうかなんて考える間も無く、気づいた時にはそう、口にしていた。