独り立ち

 親はいない。それは昔から。
 保護者もいなくなった。これは四年前。
 年は未成年。自分の事は自分でどうにかできるくらいにはなった。
 だから、
「オレ、フリーライターになる事にしたよ」
「ライター? お前が?」
 世話になっている退役軍人会の食堂で切り出すと、アラガキは目を丸くした。顔半分を傷跡で覆われたこわもての元メガロボクサーは、すぐ人のいい、心配そうな表情になる。
「やりたい事を見つけたのはいいが、ライターなんて食っていけるのか? 記者連中とつてがあるのは知ってるが……かつかつにならないか」
「自分の食い扶持をまかなうくらいなら、どーにでもなるって。オレはボンジリみたいに料理が出来るわけじゃないし、オイチョみたいにメカいじり好きなわけでもない。サチオみたいに腐ってる暇があるなら、少しでも金稼げるようになんないとじゃん?」
「まあ……それは、そうだが」
 ふさぎ込んでいるサチオに思いをはせたのか、なおさらアラガキは顔を曇らせた。だーいじょうぶだって、とオレは頭の後ろで手を組む。
「あいつ、基本頭いい臆病もんだからさ。いつまでもうじうじしてらんないだろうし、何かやるにしても無茶はしないって」
「……だといいんだがな。サチオの事は、十分気にかけておくが……しかし、そんな簡単に始められるものなのか、ライターってのは」
「うん。仲良くなったおっさんが色々教えてくれてさ。実は今までも、短いコラムはちょこちょこ書かせてもらってたんだ。で、今度お古のパソコンくれるっていうから、いよいよ独り立ちしてみようと思って」
 そうか、とアラガキの表情が和らぐ。
「そうだな、お前は一番しっかりしてるから、上手い事やりそうだ。コラムってのは気になるな、今度見せてくれ」
「もう読んでるよ」
「ん?」
「今日のメガロボクスタイムズで、時論記事を褒めてたじゃん、アラガキ。あれ、書いたの俺だから」
「なに? そうなのか?」
「そ。文末の執筆者まで見てくれよな、ちゃーんとオレの名前載ってるんだぜ」
 ちょうど手近にあった新聞を引き寄せて開いたアラガキは目を瞬かせた。確かに、と呟いた後、
「……そうか。そうか、すごいなサンタ。偉いじゃないか」
 不意に手を伸ばして、こっちの頭をぐしゃぐしゃって撫でてきたので、びっくりした。
「うわ、やめてくれよ! もうガキじゃねぇんだから!」
 思わず体をそらしたら、アラガキはもはや目まで潤ませて、
「ああ、そうだな。お前はもう、立派な大人だ。……しっかりやれよ」
 心からの応援を口にしてきたから、なんだか照れくさくなってしまった。こう真っすぐ褒められると、どうも落ち着かねぇや。