メガロボクスなんざ、まともな奴がやるもんじゃない。
人間の可能性だの、財産だの、偉いさんは大仰な事を抜かすが、所詮は殴り合い。それしか出来ないごろつきが寄り集まって、互いをぶちのめすだけのものだ。
そんなものに人生をかけるなんざ狂気の沙汰だ。足を洗ってとっとと普通の、まっとうな人生に戻った方が、長生きできる。
――分かってる。狂ってるのも分かってる。こんなことを何で今も続けてるのか、自分でも分からない。
手に取った新聞を開いたら、チャンピオンのにやけ面が目に入って舌打ちした。
てっぺんに君臨し続ける優男は、顔と調子の良いガキだ。マスコミ連中は前のチャンプと違ってサービスのいい若造に群がり、毎日どこかしらで取り上げてる。いい加減見飽きたと思った瞬間、見出しに目を奪われた。
『マック戦を前に極秘スパーリング!! パートナーはあの“ギアレス・ジョー”!!』
「ああ!?」
思わず声を上げて前のめりになった。何のフカシだと思ったが、紙面に大写しになっている男は確かにあの男――七年前、自分をKOした上、チャンピオンまで登りつめたギアレス・ジョーだ。
(……あの野郎。何を今更戻ってきやがった)
復活を期待する内容に盛大な舌打ちをする。ルーキーだったリュウをなめてかかってエキシビションで大負けして、しかもその後尻尾を巻いて逃げ出した野郎。
メガロニア初代チャンピオン、シャーク鮫島に勝った男、その肩書に盛大に泥を塗っておいて、今更復活しようなんて、虫がよすぎる。
(クソガキが。現実はそう甘くねぇんだよ)
記事じゃチャンピオンにカウンターを入れたらしいが、どうせまぐれ当たりだ。
また無謀な挑戦をしかけようとしているのかもしれないが、年をくったメガロボクサーが通用するほど、プロの世界は安くない。もう夢を見せる事なんて不可能だ。三度目の舌打ちをしたところで、
「珍しいな、鮫島。何か面白い記事でもあったのか」
通りかかったトレーナーに声をかけられて、あ? と不機嫌な声を返す。相手は首をかしげて、
「ん? いや、さっきずいぶん、嬉しそうな顔してたぞ。舌打ちしながら笑うなんて、器用な奴だな」
そう言われて、ぐっとなった。
「別に……なんでもねぇよ」
乱暴に新聞を投げ捨てて立ち上がる。
笑う? 俺が? ギアレス・ジョーの記事を見て? ふざけんな、そんな事あるわけねぇ。
――あいつもまた戻ってきちまったのかと思ったのは、そうだけどよ。