追悼

 風の噂に、あの男が死んだと耳にした。

 この街の出来事は、その気がなくても聞こえてくる。
 それを知ったところで、特になにか思うところはない。すでに終わった話。今の自分には塵ほども関わりがない。

 にもかかわらず、人目を嫌って夜中に墓地へ足を踏み入れる。
 目当ての場所はすぐ見つかった。
 溢れんばかりに置かれた花々は、闇の中で風に震えていた。
 正面に立つ。見下ろす。
 シンプルな墓石にはあの男の名と、Great Trainerの文字が刻まれている。その下には、使徒の言葉も。
 ふ、と笑ったのはどんな感情によるものだったのか、自分でもよく分からない。
 叩きつけてやろうかと思っていたウィスキー瓶の封を開け、傾け、琥珀の波を浴びせる。
 空になった瓶をその辺に投げ捨て、懐から取り出した煙草に火をつけた。
 一服、深く吸い込み、吐き出す。
 立ち上って消える白煙越しに空を見上げて、もう一度笑った。
 雲一つなく晴れた空には、アンタレスさそりが良く見える。