「わー、広い!」
「ほんと、すごく素敵じゃない。温泉なんて久しぶりね」
「そうそう。総隊長も気がきくわよねー、慰安旅行計画してくれるなんてさ」
「しかもこんな綺麗なところですもんね。早く入りましょうよ、乱菊さん、勇音。よいしょ……」
「はいはい、っと……あーあっつい、きもちいー! ねぇ雪音、……」
「? 何ですか、乱菊さん」
「いや、前から思ってたけどさぁ。雪音って良い身体してるわよね。そう思わない? 虎徹」
「ブハッ!」
「な、何言い出すんですか乱菊さん、いきなり」
「えーだってさ、ラインがエロイっていうか」
「意味わかんないから! っていうか、そんなん乱菊さんに言われても」
「何でよ」
「だって、乱菊さんのほうが胸大きいし。勇音だって」
「あたしは……その分、背大きいから。雪音くらいのほうが、可愛いわよ。……あっ、背の事よ、背丈の事!」
「そうそう。それに雪音のは形いいじゃないよ。こう、さわりたくなるっていうか」
「…………近寄らないで下さいよ」
「なによう、別に襲ったりしないってば」
「身体さわられるの、好きじゃないんです」
「えぇー? でも雪音みたいなタイプって、彼氏には甘えまくりっぽいんだけど」
「いや、別に甘えませんよ。今彼氏いないし」
「そうなの? 前つきあってなかったっけ?」
「とっくに別れました」
「そうそう、それ聞こうと思ってたの。どうして別れちゃったの? 優しそうな、いい人だったのに」
「ん~~、何でだろう……。仕事忙しくなって、自然消滅……みたいな感じになっちゃった気が」
「そうなんだ。もったいない、お金持ってそうだったのに」
「どういう基準で彼氏選んでるんですか、乱菊さん……。というか、乱菊さんは彼いないんですか?」
「いないわねぇ」
「作らないんですか?」
「うん、乱菊さんだったらモテモテでしょう」
「ん~、今はそういうの、面倒なのよね。束縛されるの嫌いなの」
「あ、それ分かる。あたしもいちいち口出しされるの、嫌い」
「彼氏彼女だからって、四六時中一緒にいたら、息つまらない?」
「そうそう、そう思う。たまには一人でのんびりしたいですよね」
「女同士で飲みに行ったりね」
「あーいいですね。あがったら、食堂行ってみます? 地酒とか色々種類あるみたいでしたよ」
「あら良いわねー、いきましょ」
「ま、また飲むんですか……」
「とーぜん。まだまだいくわよ、虎徹。……でもさぁ、雪音」
「はい?」
「ほんとに彼氏いらないの? まだ若いんだし、色々遊んでおいたほうがいいんじゃない?」
「いや、遊びって。男遊びするつもりは無いですから。そもそも乱菊さんとそう変わらないっていうのに。
……良いんです。今は仕事の方が楽しいし、気になる人もいないし」
「雪音や虎徹のタイプってどんなよ」
「そ、そんな、タイプなんて」
「ん、ん~……急に言われても」
「護廷十三隊で一人くらいはいるでしょ? タイプの人が」
「え、そういう縛り付き?」
「え、えーと……うーん……」
「藍染隊長……とか?」
「え、そうなんだ。意外」
「何でですか」
「だって雪音、藍染隊長の事苦手じゃないの」
「苦手、っていうか……藍染隊長って、すごくまともで、すごくきちんとした方でしょう。
あたしはこう、考えもなしにばーっと口走っちゃうから、失礼ないように、と思うと緊張しちゃうんです。
でも、それ抜きで言えば、穏やかで優しい方だし、気配り上手っぽいなぁって」
「ふーん、そういうのがタイプなんだ。虎徹は?」
「あたしは……射場さん?」
「渋ッ!!」
「な、何で? 勇音って、射場さんと仲良かったっけ」
「あ、ううん、ちょっと話した事あるってだけだけど。でも何かこう、包容力ありそうだなぁって。大人の男性って感じがしない?」
「え、えぇっと……コメントに困るな。あー、乱菊さんは?」
「あたし? あたしは……朽木隊長?」
「えっ。それこそ意外。そりゃ格好良いけど、朽木隊長って付き合いにくそうじゃありません?」
「甘いわね、雪音。ああいうタイプは得てして、自分の懐に入れた人間にはとことん弱いのよ。
一度気を許したら、どんな我が儘も、最後には絶対聞いてくれるんだから」
「はぁ、そういうものですか」
「あるいはうちの隊長もいいかなー。いつも仕事手伝ってくれて、ぶっきらぼうだけど優しいし」
「……いや、それは乱菊さんが仕事さぼりまくるからじゃ……」
「そもそも、見た目に犯罪っぽい……」
「後は誰かなー、あんまりいい男いないわよね、護廷十三隊って」
「スルーですか。いいけど。……あ、檜佐木君は? 乱菊さんのこと、好きですよね」
「あぁ駄目駄目。頼りないし馬鹿だもん、あいつ」
「ひ、ひどい……そこまでバッサリ斬らなくても……」
「可愛いところはあるけど、ま、ただの飲み友達だわね」
「……じゃあ、後は……。そういえば市丸隊長って、乱菊さんの同期じゃなかったでしたっけ」
「……あぁ、まあね」
「……そういうの、なさそうですね」
「無いわね。今じゃ特に付き合いもないし」
「そうですか」
「雪音は?」
「はい?」
「周囲にちらほら男がいるじゃないの。恋次とかどうなのよ」
「阿散井君? いや、どうって。別にどうとも」
「嘘、結構かわいがってるじゃないの。甲斐甲斐しく怪我の治療しちゃって」
「それ仕事だから。それに阿散井君、朽木さんが好きっぽいし」
「朽木さん?」
「ほら、十三番隊の子ですよ」
「あぁ、朽木ルキアのほうね。びっくりした、朽木隊長に惚れてるのかと思ったじゃない」
「そういう薄ら寒い冗談はやめてくださいよ……」
「あんたの言い方が悪いんでしょ。でもそうなんだ、恋次って朽木が好きなんだ」
「いえ、異性として好きかどうかは知りませんけど、でも大切に思ってるっぽいから。そういう相手がいる人は、恋愛対象にならないです。
それに阿散井君自身、まぁ、年下の男の子って感じで可愛いなぁとは思いますけど、そういう風には見た事ないですよ」
「か、可愛い……?」
「うん、勇音はそう思わない?」
「……ノーコメントでお願いします」
「じゃあ……やっぱり一角とか」
「何で、やっぱり、一角なんですか、よりによって」
「仲良いじゃないの、あんた達。ねぇ?」
「えぇ、まぁ、そうですね」
「あんなに喧嘩しまくりなのに、どこをどうしたら仲良しに見えるのよ」
「それはあれでしょ。喧嘩するほど、とか、夫婦げんかは、っていう類の」
「夫婦じゃないから。あと一角は違うから」
「何で? 好みじゃないから?」
「そりゃそうですよ。あーんな目つき悪くてハゲで態度でかくて、鉄砲玉みたいに飛び出していったと思ったら、血まみれで帰ってくるような阿呆、だーれが」
「ふーん……」
「そう……」
「……何で二人して、ニヤニヤしてるんですか」
「えっ、あ、ニヤニヤなんてしてないわよっ」
「べっつにぃ。そろそろ上がろうかな」
「ちょっと、何か勘違いしてません?」
「なにがぁ?」
「なにがぁ、ってちょっと待って下さいよ!」
「あっ、待って、雪音! 走ると転ぶわよ!」
「……だってさ、一角」
「うるせぇよ」
「僕は何も言ってないよ?」
「うるせぇってんだ、黙れ畜生!」
「一角ー、今上がると鉢合わせだよー、って行っちゃったよ。しょうがないなぁ。修兵、そのままだと溺死するよ」