test花のうへの露10

 雲が少しずつ空を覆い始め、遠くから湿った匂いが風に乗ってやってくる。 (遠からず、雨になりそうだね)  その光景を縁側に座して見上げ、朝顔は目を細めた。冷えすぎて雪にならなければいいが、と足をさする。手厚い看護のおかげ…
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test花のうへの露9

 書状が届いて二日後、伊達屋敷は新たな客人を迎え、緊張の空気に包まれていた。  やってきたのは、徳川家康その人。かつては織田、豊臣の配下となり忍耐を強いられ続けた若き少年であったが、今政宗の前に座したその姿は、見違えるほ…
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test花のうへの露8

 自分の身体の一部のように馴染んだ手中の重み、地面に向けて延びるその先端までを意識しながら、政宗はゆっくりと刀を正眼に構えた。  目はうっすら雪が残る境内に向けられているが、見ているものはそれではない。  息を吸う、吐く…
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test花のうへの露7

 まだ春には早い時分、風は冷たい。しかし久しぶりに全身で外の空気を感じ、朝顔は生き返る心地だった。 「あぁ、いい気分だ。晴れてて気持ちがいいねぇ」  すう、と胸に思い切り息を吸い込み、吐き出す。  空は透き通るほどに青く…
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test花のうへの露6

 次の日から約束通り、小十郎は毎日朝顔のところへ来るようになった。そして半刻ほど、他愛のない雑談をしていくだけなのだが、やはり一人でいるよりは楽しくて、動けずくさくさした気分が上向いてくる。それ故に朝顔はいつしか、小十郎…
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test花のうへの露4

 伊達屋敷に身を寄せて、はや七日。療養のために用意された部屋で、朝顔は退屈しきっていた。 「ん……ん、ん~~っ」  午睡から目覚め、布団の中で身体を伸ばした。頭の上に広げた腕をだらり、と床に落とし、天井を見上げて、 「……
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test花のうへの露3

 義姫の土産と旅の女を持って、小十郎は伊達屋敷へと帰着した。女の手当を館の者に託し、自身は真っ先に政宗のもとへ向かう。 「よぉ、小十郎。ご苦労だったな。母上のご機嫌はどうだった?」  政宗は自室で六爪の手入れをしていた。…
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test花のうへの露2

 石や木の根っこを手がかりに、足先から斜面を滑り降り、小十郎は女のもとに辿り着いた。 「よし、あんた、起きられるか?」 「あぁ、まぁね……ん、しょっと」  小十郎が来るまで大人しく待っていた女は、その手を借りてゆっくりと…
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test花のうへの露1

 夜来の細雪が止み、ひんやりとした空気が頬を撫でる朝。小十郎は政宗の母、義姫のもとから、ゆっくりと帰路を辿っていた。 (早いところ、戻りてぇもんだが)  残してきた仕事を思うと、のんびりしているわけにもいかないのだが、何…
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test恥を知る

「喉が渇いているだろう。これを飲んでおけ」 「……はい、ありがとうございます」  そういって差し出された湯呑を受け取って口に含むと、確かに思っていた以上に喉がからからになっている。熱くもなくぬるくもないお茶は染みわたるよ…
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