test花のうへの露20

 小姓の仕事を終え、頼鷹の前から辞した後、人も寝静まった夜分。  こっそり部屋を抜け出した佐助は、お気に入りの松の枝に陣取った。そして、頼鷹から下賜された脇差しを両手に握り、ゆっくりと鯉ロを切る。  きぃ……ん……。  …
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test花のうへの露19

 夜中駆け回っていた桔梗は朝方屋敷へ戻り、半刻寝た後、起きた。すぐに身支度を整えて、部屋を出る。 「鷹通たかみち様、お目覚めの刻限にございます」  そうして、途中あちこちに寄りながら、まだ人もまばらな廊下を通って行き着い…
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test花のうへの露18

 何も見えない、真っ暗。自分の体が消え失せて、心だけ浮いているような感覚だ。時に見える世界はぐるぐる回っていて、何一つ捕らえられない。気持ちが悪い。吐きそうだ。頭蓋をヤスリでこすられているようで、激しい痛みに何もかも投げ…
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test花のうへの露17

 奥州の空を覆った黒雲は始め雨を、やがて細雪を降らせた後、風に運ばれて消えた。地面に薄く積もった雪も溶け去り、今宵はさえ渡った月が空を飾っている。  その夜、政宗はその明かりを浴びながら、月見酒を楽しんでいた。開けた障子…
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test花のうへの露16

「……石田三成。聞き覚えのある名だな」  朝顔の殺気に顔をしかめながら、小十郎は記憶の糸を辿った。そう遠くない日、その名を耳にした気がする。朝顔はそうだろうね、とため息混じりにいった。 「先の武田上杉による豊臣侵攻の折り…
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test花のうへの露15

 熱い。身体が燃えるように熱い。 「う……くっ……」  息が苦しい。は、と息を漏らして目を開く。ぼやける視界は薄闇で、何も見えない。 (ここ、は……)  どこだろう。考えようとしたが、頭がぼうっとして働かない。からからに…
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test花のうへの露14

 ギァン!  高い音を立てて刃と刃がかみ合った。そのまま互いに一寸もひかぬつばぜり合いとなり、ぐずついた地面に足がめり込む。刀ごしに痩身の男とにらみ合いながら、政宗はニッと口の端をあげた。 「どこに行くつもりだ、あんた。…
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test花のうへの露13

「さぁ、教えてもらおうか。てめぇらのどっちが、オレの目を盗んで、奥州で悪さをしてやがるのかをな」  笑いの中に怒気を含んだ政宗の声を聞きながら、小十郎は小太刀を放った手を下ろした。襲撃者を追って分け入った山中、ようやく見…
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test花のうへの露12

 闇に覆われた森に、雨が降る。枝葉にふれ、さわさわと衣擦れのような音を立てる雨は冷たく、じわりじわりと体温を奪っていく。 (雨は嫌いだ……篠突く雨など、以ての他だ……)  山道を進みながら、男は心中で呻いた。濡れるのも構…
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test花のうへの露11

 異常の知らせを受けた小十郎は、すぐさま政宗へ報告にあがった。二人は机の上に地図を広げ、向かい合ってのぞき込む。  太い線で奥州のおおまかな地形が描かれた地図には朱のばつ印が描かれ、それは小さなものも含めて五つを数えた。…
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