test花のうへの露50

 日が傾き、障子を透かす陽光が形を変え、影が少しずつ畳の上に伸びていく。  遠くに鳥の声が響く穏やかな静寂の中、小十郎は壁に向かって一人猛省していた。 (俺は……俺は何という不心得者だ! いくら政宗様から許しを頂いたから…
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test花のうへの露49

 俺は、身の内に潜む鬼を、恐れている。  理性という鎖を食いちぎり、暴れ回ろうとするこの鬼を、どうしようもなく恐れているのだ――  政宗に命じられて帰路についた小十郎は、道すがらため息を何度もついていた。  日は高く、爽…
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test花のうへの露48

 天下分け目の戦は、東軍の勝利にて幕を下ろした。  総大将を失い混乱状態となった西軍に対し、徳川家康は降伏を呼びかけ、各陣営はその勧告をおとなしく飲む。果たして、日ノ本の頂には徳川家康の名が掲げられ――だが、それも一時の…
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test花のうへの露47

 これまで生きてきた中で、声をあげて泣いた経験など、ほぼ皆無に等しい。だから朝顔は知らなかった。  涙も空っぽになるほど泣いた後がこんなに苦しくて、体がだるくなるほど疲れて、心がまっさらになってしまうなんて。 「はっ………
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test花のうへの露46

「――Stop Daydreaming, 小十郎。気をしっかり持て」 「!」  ドンッ、と強く肩を叩かれ、小十郎は我に返った。  はっと視線を向けた先では、まっすぐ前を見つめる政宗の凛々しい横顔がある。先ほどまで毒霧の影…
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test花のうへの露45

 これが最後の仕事。最後の任務。  故に必ず成し遂げるのだと、覚悟を決めていた。  もしその結果が死であろうと、いっこうに構わなかった。  草はもとより、死を恐れる心など持ち合わせていないのだから。  火花を散らして、三…
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test花のうへの露44

 風が荒れ狂う。まるで剛腕を振るうかのように突然巻き起こった強風は、どっしりと渦巻いていた霧を掃き散らし、白い闇を払った。 「っ!」  その霧と共に吹き飛ばされた影が一つ、空中でくるくると回転すると、地面に這うほど低い姿…
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test花のうへの露43

 あの日の光景はこの目に焼き付いて、片時も消えることはない。  降りしきる冷たい雨。  数え切れぬほど負った傷から流れ落ちる血で、足下の水たまりが赤く染まっていく。  その同じ血だまりに倒れ伏す、切り捨てた兵達の山。  …
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test花のうへの露42

 大地が揺れる。猛りきった兵つわものどもが天を割くようなときの声を上げ、押し寄せる波のごとく大地を駆けてぶつかり合う。  鋼がはじけ、怒号と悲鳴が響きわたり、地は倒れ伏した男達の血を吸って赤く染まっていく。戦いの火蓋が切…
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test花のうへの露41

 開戦を間近に控え、兵達のざわめきが聞こえる。熱気に満ちた空気に自らも高揚感を覚えながら小十郎は陣の中で一人、気を整えていた。  伊達軍は二手に分かれ、先鋒を小十郎がつとめる事になっている。石田三成との決着を望む主の為、…
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