考えすぎか。こんなものを用意していると知られたら、やはりそれが目当てか、と軽蔑されるのでは。いやしかし、何もないのもどうか――
さっきから同じ言葉ばかりが頭の中を回り、一歩も動けない。勇利は小さくため息をつき、かぶりを振った。
(堂々巡りだ。もっとシンプルに考えよう。これは必要か、否か)
そうして、深く被ったフード越しに視線を向ける――すなわち、避妊具の箱が並ぶ棚へ。
……こういうものを買いに来たのは、ずいぶん久しぶりだ。
恋人がいる時は必ず持っていたものだが、それも昔の事。
メガロボクスにのみ打ち込むと決めてからというもの、女は遠ざけていたし、もう二度と必要ないとさえ考えていたから、ストックもない。
だから、今日。
キトゥンが家に来るのならと夕飯の買い出しにきて、ふと目に入ったドラッグストアの前で、つい足を止めてしまった。
(…………)
逡巡する事、五分。店に入って、目当ての場所へきて、すでに十分。
いざ目の前にすると、果たしてこれが要るのかどうか、考え込んでしまう。
(……本当に、他意はなかったんだ)
試合映像を見るための再生機器が無いから困っていると言うキトゥンに、家にあるから来るかと何気なく告げたのだが――その途端、彼女が赤面して絶句したので、つい自分も連想してしまったのだ。
つまり、恋人を自宅に泊める、という意味を。
(いや、泊まるとも限らない。映像を見終われば、帰るかもしれない)
そう思うと、やはりこれまで用意するのは、過剰反応な気がする。それこそ、他意をもって彼女を出迎えようとしているような……。
(それが悪い、というわけでもないとは思うのだ、が)
顔が熱くなってきた気がして、口元に手を当てながら思う。
以前キトゥンが家に来た時は下心などなく、手を出したらチンピラ同然と自分を戒めたのだが。
あの時はまだ、付き合う前だった。
しかし今回は、交際を始めてから最初の訪問だ。
……ことがあっても、おかしくは、ない。
(大体俺はもう、キトゥンに何回かちょっかいをかけている)
彼女と何気ない話をしている時でも、勇利は自身にさえ予想外のタイミングで触れたり、キスをしていた。
それは前もって意識している訳ではなく、その時の衝動によるもの。
ジムで会っているだけでそうなのだから、自宅で二人きりになれば、なおさら――
(やはり買うべきか。自分で自分が信用ならん)
ようやく覚悟を決めて、手を伸ばした。が、
「……ねぇ、ちょっとあそこのフードの人。
さっきからずっとうろうろして、怪しくない?」
不意に後ろから小さな声が聞こえてきた。
ぎく、と硬直する勇利の耳に、
「本当、何してるのかしら。万引き?」
「ずっと買うの迷ってるなら、何か気持ち悪い……」
などと店員のひそひそ声が届いたので、
「……っ」
フードを目深に引き下ろすと、踵を返して足早に店外へ去り――
結局、よその店で選ぶ間もなく買い求めると、
(次は、通販にしよう。……もし次があるなら、だが)
車の助手席に押し込みながら、そんな決意をしたのだった。
用意周到