未練がない、といったら嘘になる。
メガロニア決勝。ギアを取り去った体で十三ラウンド。
生涯に一度、出会えるか否か。そんな相手と心ゆくまで闘った。その結果、死の淵を彷徨い、命を取り留めたがもう歩く事は叶わないと医者に断言された。
少しのショックと、大部分の納得。
自分の体の事は自分で分かっていたから、その診断を聞いても、驚きはしなかった。
どんな結果であれ、自分の望みのままに、最後までやり通せた事が嬉しかった。
これでもうやり残したことはないと、清々した気持ちだった。
だから十年ぶりに恩師を訪ね、ガウンを渡した。あなたのおかげでこれまでやってこれたのだと、感謝の気持ちを込めて。
それで終わり。自分の十年以上に及ぶ闘いは終わり、あとは静かに過ごすつもりだったのに。
――やってみますか、勇利さん。また、一緒に。
そう言って恩師が差し伸べた手を、驚きとともに見つめた。
誘いに驚いたのではない。その誘いが、轟くほど心を揺り動かした事に、驚いた。
――ああ、俺は、まだメガロボクスをやりたいのか。
少しのためらいと、大部分の納得。
また自分を拾ってくれる恩師に感謝をして、俺はその手を取った。
どんな形であれ、再びリングの闘いへ戻ることに、抑えようのない喜びを感じながら。