あなたに触りたい

 ――BBを打倒するため、サーヴァントのリミッターを解除する。
 最後の決戦を控え、桜の壁を解放する条件としてあげられた、十の王冠への対策。そのためにマスターはサーヴァントの電脳体の中へダイブし、本人さえ知り得ない、深層の封印を目指す。
 異物除去のため襲いかかってくる衛生機構を、かりそめの契約で手を結んだエリザベート・バートリーの手を借りて退け、順調に奥へ進んでいたのだが……

『……んっ!』
 不意に空気が揺れ、足下がかすかに振動する。それにぎょっとして、歩を止めてしまった。
「アーチャー? どうしたの!?」
 これまで冷静に自分たちのナビを務めていたサーヴァントが動揺する気配に、空を仰ぐ。するとアーチャーが咳払いして、
『い、いや、何でもない。……だがマスター。済まないが、その辺りは少し静かに歩いてはもらえないか。その……何というか、少々体に響く』
「体に響く、ですって?」
 やや気まずげなアーチャーの言葉に反応したのは、エリザの方が早かった。素早く膝をつき、その辺りの床をなぜか手当たり次第に撫で始める。
「な、何してるの? ランサー」
 不思議な動作にきょとんとして問いかける。が……答えはランサーからではなく、
『うっ……く、や、やめろランサー……お、オレの体に触るなっ……!』
 熱く息を切らすアーチャーから吐き出された。
「……え」
 思いがけず、妙に色っぽい声が周囲に響き、なぜかこっちの顔が熱くなってしまう。一体何事かと戸惑っていると、
「あなたもやってみなさいよ、マスター。偉そうな事言って、アーチャーったら結構くすぐったがりなんじゃない」
 にやにや笑うランサーに引っ張られてバランスを崩し、勢い余って床に尻餅をついてしまう。と、
『ん……う、ま、マスター……そ、そこはだめ、だ……は、早く離れて、くれ……』
 更にせっぱ詰まったアーチャーの声が耳に入り、まるですぐ側で彼が、あの厳しい顔を悩ましげに歪ませて、こちらを見つめているような錯覚を覚える。
「だっ……ごっ、ごめんアーチャー、すぐ行く、行くから!!」
 何でそんな光景を想像してしまったのか。カーッと全身が熱くなるのを感じて、勢いよく立ち上がった。ランサーの手を取って、脱兎のごとく駆け出す。しかし、
『はぁっ、ま、マスター、だから、そこは、走らないで、くれっ……!』
 荒い息づかいまで聞こえる裏目が出て、
「ご、ごごごごごめん! なんかもう全部すみませんでした!! やることやったらすぐ帰るので勘弁して下さい!!!」
 思いっきり叫んで、迷宮を駆け抜ける。後ろからついてくるランサーが、
「マスター、そんなふしだらな真似しちゃ駄目よ。乙女の純潔は結婚するまで清く正しく守らなきゃ。あんな変態に捧げるなんて、もってのほかだわ!」
 などとよく分からない事を熱弁していた気がするが、とにかく早く外に出たいです先生、お願いします!!