「……そういえば……アーチャーのレリーフ、今思うと……強烈だったなぁ……」
「何? 今なんと言ったのかね、マスター」
虚数空間からようやく脱出し、マイルームのベッドにたどり着いた時。アーチャーとつらつら語りながら、眠りに落ち掛ける最中につぶやいた言葉に、相手が反応した。今は以前と同じ赤い礼装に着替えている彼を見返し、ついふふふ、と笑ってしまう。
「だって……あのでっかいレリーフに……クール&ワイルドな格好で……露出度とインパクトでいったら……パッションリップと、同じくらいだったなぁと……」
アーチャーのレリーフに向かっていた時はとにかく必死で、体中ずたずたに切り裂かれ、目の前さえ見えなくなるほどだったので、そこまで思い至らなかったが……改めて脳裏に描き出すと、その強烈さに笑いがこみあげてしまう。
何しろ首輪をつけ、赤いレザージャケットを羽織った上にその鍛え上げられた胸元をさらけ出した男性が、花の額縁に納められていたのだから。
「……パッションリップと同格にするのはやめたまえ。あの衣装で見えるのは、せいぜい胸や腹くらいだろう、露出箇所はまだ少ない。
それにそもそも私とて、まさかレリーフ化するとは、しかもそれを誰かが目にする機会があろうとは、夢にも思わなかったのだ。人の心をのぞき込んでおいて、あれは滑稽だったと笑うのは、いささか配慮に欠けると思わないかね」
椅子に座ってこちらを見守るアーチャーの顔が苦々しく歪む。それはその通りだ。こちらも意図してではないが、彼の心の中へ無遠慮に踏み込むようなまねをしてしまった。
「……ごめんなさい、アーチャー……」
レリーフのアーチャーを笑ってしまった事。
心の中へ押し入ってしまった事。
自分に戦う力がないのだと当たり前の事実を見落とし、勝手に絶望していた頼りないマスターである事。
色々な思いを込めて、謝罪する。と、アーチャーは頬に苦笑を上らせ、
「もういい。私は君を守った。そして君は私を救ってくれた。それでイーブンだ。謝罪など必要はない。
……だから今はゆっくり休む事だけ考えるんだ、マスター。新たな戦いに向かう為にも、ここでしっかり疲れを取っておかなければならないだろう?」
ふとその大きな手をこちらの目にかぶせ、視界を闇に閉ざした。
(……っ)
暗闇は、あの果てしない虚数空間を思い出させて、一瞬の緊張を呼び起こした。だが、この闇は暖かく、優しく、安心して身を委ねられる。
「……うん。お休み、アーチャー……」
だから目を閉じて、とろとろと迫ってくる睡魔に意識を明け渡す。緊張がほぐれ、恐怖も悲しみも怒りもない、快適な眠りに落ちる寸前、
「お休み、マスター。良い夢を」
アーチャーの優しい声を耳にし、額に柔らかい温もりを感じたような気がしたがーーそれもまた、夢の一部だったのかもしれない。