異界に咲く花(血界戦線)

 ライブラのメンバーにはいろんな人がいる。  レオが知っているだけでも、年齢、性別、人種、種族、多種多様な面子だし、それ以外の構成員がどれだけバラエティに富んでるか、想像もつかない。  ライブラの主力は戦闘力に重きが置かれている。  リーダーのクラウス・V・ラインヘルツを始め、ザップ・レンフロ、K・K、スティーブン・A・スターフェイズは自らの血をもって武器と化し、異界の荒くれどもから血界の眷属という化け物に対抗し得るほど、卓越した実力を持っていた。  一方で、戦闘以外の能力で在籍しているものも、もちろんいる。  チェイン・皇は不可視の人狼として諜報活動にたけているし、レオナルド自身も、喧嘩はからっきしだが神々の義眼という『視る』事にかけては神業的な力を持っているから、ライブラのメンバーたりえている。  上記の通り、ライブラに属する面々は何も腕っぷしの強さだけを買われているわけではなく、その点で言えば、 「こんにちは、レオさん。ミスタ・クラウスは今日いらっしゃいますか?」  月に一度、ライブラの本部へ顔を出すプラントハンター、シャルロット・D・リブリューズも、戦いなどまるっきり向かなそうな、細身の女性だった。 「あ、こんちはーシャルロットさん。クラウスさんなら多分いると思いますよ、今日は書類片付けるって言ってたので」  四方をドアが囲む入口に足を踏み入れながら答えて、レオは、おお……とシャルロットを見上げた。  正確にいうと、彼女が抱えている植木鉢から高々と伸びる、先端に淡い虹色の葉を生やした植物を見上げた。  葉と葉がこすれあえば、かすかに鈴のような柔らかい音が聞こえてくる。 「これはまた、珍しい植物ですね。異界で見つけたんですか?」  問いかけると、緩く縛った髪を肩から、作業服の背中に払いながら、シャルロットがにっこり笑う。 「ええ。ずっと前に一度見かけたきり、なかなか発見出来なかったのですが、永遠の虚付近まで潜ってようやく捕獲できたんです。  もし見つけたらクラウスにぜひお見せしたいと思っていたので、さっそく来てしまいました」 「永遠の虚付近って……また危ないところに突っ込んでますね、シャルロットさん……」  ニコニコ笑いながら、さらりととんでもない事を言うので、レオは顔が引きつった。  異界とNYをつなぐ巨大な穴――永遠の虚。  レオは以前、人が足を踏み入れる限界ぎりぎりまで降りてその虚をのぞいたが、そこに見たのは数えきれないほどの血界の眷属たちだった。  たった一人、その体の破片すらも大惨事を引き起こす最強生物が巣食うその場所へは向かうには、足を一歩踏み出せばいい。そうすればそのまま、まっすぐに落ちて行くのだから。  しかし、ヘルサレムズ・ロットでさえ、人が生きるのには過酷な環境だというのに、その元凶たる異界への直通路など、よっぽどの理由がない限りは近づきたくないのが心情だろう。  それをシャルロットは、作業服の上からでもわかるほど豊かな胸元を張って、 「どんな危険があろうと、そこに未知の植物があるかぎり、突き進むのがプラントハンターの使命です!  でも大丈夫ですよ、ぎりぎりの境界線は渡らないように気を付けてますし」  相変わらず部屋が動いた形跡もないまま移動が完了し、扉が開く。  いつもの事務所、こちらの来訪に気づいて体を向けたクラウスに目を細めて、シャルロットはレオにしか聞こえないくらいの小声で囁いた。 「もし私が皆さんに迷惑をかけるような事態になったら、クラウスに対処していただくようにお願いしていますから」 「……え、シャルロットさんっ」  対処って、それはまさか。  一瞬虚を突かれてまごつくレオをよそに、シャルロットはこんにちは、と笑顔で部屋の中へ足を踏み入れて、クラウスと歓談を始めてしまった。 (……普通の人に見えて、あの人もやっぱりライブラなんだなぁ)  日常と紙一重の位置に死が、思いもかけない悪夢が寄り添っている事を、彼女もまた理解している。  その事を実感しながら、レオはザップが雑に寝ているソファへ近づき、よいしょと足を押しのけた。さて、今日の仕事を始めなければ。 というオリキャラ話。