140字小話(討鬼伝2)

【九葉小話】

「九葉、この綺麗な箱は何ですか?」
「西洋の菓子だそうだ。大使が土産に持ってきた」
「宝露糖、ですか」
「欲しいのなら持っていけ」
「いいんですか?」
「私は甘味を口にせぬのでな」
「では遠慮なくいただきます」

 ……

「すーっ…すーっ…」
「…中に酒が入っていたか…おい、ここで寝るな」

【神無小話】

 今日こそあいつの手を握る。と決めたのにわざとか無意識か、あいつはすいすいと避けて隙がない。
 さすが俺が認めた奴と歯噛みしながらようやく握ったと思ったら「神無、天狐触れるようになったんだね~」二人の間に割り込んできた天狐に硬直するはめになった。くっ、このけだものめ…!

【八雲小話1】

 異界を探索中とつぜん、首の後ろに吸い付かれて悲鳴が出た。
「なっ、何をするカラクリ使い!!」
 ばっと振り返ると、彼女はまるで悪びれもせず「八雲ってうなじ綺麗だから、つい」にっこりと笑う。
 こっ、この、貴様は痴女か!!

【八雲小話2】

 かぐや様が無断でカラクリ使いの所へおいでだったので、お一人で外に出ては危ないと説得して、三人で岩屋戸へ戻る事にした。
 その途中、行きあった里の老婆がニコニコと笑いながら、
「あれまぁ、八雲様いつ所帯をお持ちになったね。可愛らしいお嫁さんとお子さんだこと」
 等と言ったので、カッと赤面してしまった。
 …なぜ私が赤くなる必要があるのだ?

【焔小話】

 何十匹鬼を狩ったか覚えていない。腕が重い。足が重い。行動限界も近い。だがそれがどうした。焔は血で滲む視界を拭い、迫る鬼へ笑う。
「いくらでも来いよ、タコが。俺もあいつも、テメェらにやれるような安いタマじゃねえんだよ」
 背後で倒れた彼女を思えば、この一線はどうあっても退けないのだから。

【刀也小話1】

 彼女は常にまっすぐで迷いを知らない。悔いの中を生きてきた自分にとってその姿は眩しく恐れすら感じる。彼女には、決して触れてはいけない。そう自分を律しているが―
「夜桜も綺麗ね、刀也。このまま朝まで飲みましょうか」
 そういって微笑む彼女を、今だけは独り占めしたいと思うのは傲慢だろうか。

【刀也小話2】

 違う、そうではないと何度叫んだか。否、喉が潰れて声は出ない、指先は微塵も動かせず、空気を求めた口から鮮血が溢れる。
「刀也、動かないで。この鬼を片付けたらマホロバへ帰るから」
 彼女が怒鳴る。ボロボロになりながらそれでも俺を守る女に叫びたかった。
 違う、俺がお前を守りたいのに。

【紅月小話】

 私は罪を負った女ですと彼女は言う。
「あなたの気持ちは嬉しいです。でも私のような女ではとても釣り合わない」
「紅月、俺も昔何をしたか分からないよ」
 失った記憶の中、自分は誰かを殺してきたかもしれない。そういうと彼女が辛そうな顔になったので、笑ってほしくてそっと頬に触れた。